都会からはなれた森のなかに、小さな家があった。しかし、それは別荘などではなく、悪人団の本部だった。
ある日。その首領は、ここに子分たちを呼び集めて言った。
「大きな計画を思いついたぞ。おまえたちにも、ひと働きしてもらわなければならない」
「銀行強盗でもやろうというのですか」
と子分たちは身を乗出した。だが、首領は手を振った。
「いや、そんなけちなことではない。いままで、だれひとり考えもしなかったような、どえらい仕事だ。どうだ。やってみるか」
「やりますとも。命令を出して下さい」
「それでは、まず町へ行って金網を買ってきてくれ」
それを聞いて、子分たちは首をかしげた。
「なんに使うのですか」
「大きな鳥小屋を作るのだ」
「気はたしかなんですか。ちっとも、どえらい仕事とは思えませんが」
「そのなかで、たくさんのキツツキを育てるのだ」
「ますます、わからなくなりました」
とふしぎがる子分に、首領は言った。
「おまえたちにもわからないとなると、だれにも気づかれることなく、この計画を進めることができそうだ。成功への自信がついてきたぞ」
「いったい、キツツキをどうするのです」
「押しボタンを見ると、クチバシで突っつくように訓練する。そして、町にむけて飛び立たせるのだ。どうなると思う」
「家の門などについている、ベルのボタンを押すでしょうね」
「そうだ。そればかりではない。火災用だの、防犯用だのの非常ベルを、いたるところで押すわけだ」
説明されているうちに、子分たちにもしだいにわかってきた。
「警察は、さぞあわてるでしょう」
「そのほか、オートメーション工場に忍びこんでボタンを押しまくれば、へんな品物がぞくぞく出てくる。コンピューターのある部屋に飛びこんでキーを押せば、めちゃくちゃな答えが出はじめる」
「町じゅう、大混乱になりますね」
「そこだよ。そこへわれわれが乗りこむ。どさくさまぎれに、欲しい品物を手当りしだいに持ってこれるというわけだ」
「なるほど、なるほど。わかりました。さすがに首領だけあって、すごい計画です。さっそく、とりかかりましょう」
子分たちは大きな鳥小屋を作り、キツツキを育て数もふやした。毎日エサをやりながら、クチバシでボタンを押すように訓練した。
やがて、これでよしと見きわめをつけた首領は、キツツキをいっせいに飛ばせた。
「さあ、ラジオを聞きながら待とう。まもなく、大さわぎのニュースが放送されるだろう。そうしたら、われわれは宅配用の車に乗って出発するのだ」
しかし、いくら待っても臨時ニュースは放送されなかった。夜になって待ちくたびれたころ、こんな平凡なニュースが放送された。
「きょう、町はずれにある鳥の研究所にいたずら者が入りこんだらしく、ドアをあけるボタンが、しらないまに押されてしまいました。そのため、実験用に飼っていた、たくさんのタカが飛び出してしまいました。しかし、夕方になると、ほとんどが戻ってきました。犯人はまだ不明ですが、このタカによって被害を受けたかたは、研究所へ申し出れば、損害に相当するお金を払ってくれるそうです……」
これを聞いて、悪人たちはがっかりした。
はじめに、とんでもないボタンを押してしまったようだ。せっかく飛ばせたキツツキが、みなタカに食べられてしまったらしい。大もうけの計画がだめになり、大損害だ。しかし、だからといって、このことを申し出るわけにはいかない。