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ふしぎな放送
日期:2017-12-30 16:43  点击:409
 ここは地球から遠く離れた、小さな惑星の上につくられた宇宙基地。水も空気もなく、植物もない荒れはてた薄暗い星だ。建物は銀色のドームで、このような基地は、ほうぼうの星にある。
 どこも、なかに何名かの隊員が住んでいた。毎日、空の星々を観測したり、宇宙服を着てそとに出て、地質の調査などをしたりしていた。
 ドームのなかの生活は、そう不自由なものではなかった。しかし、退屈でさびしいものだった。地球からの宇宙船は、ごくたまにしかやってこない。
 そんな隊員たちをなぐさめるものは、一定時間ごとに地球から送られてくる放送だった。その電波によって、なつかしい故郷のニュースや面白い話題を知ることができるのだ。
「おい、まだかな。地球からの放送は」
 その時刻が近づくと、だれからともなくこう言い出す。
「あと五分ほどだ。待ち遠しいな」
 みんな、そわそわしてくる。そして、受信機のまわりに集っていると、やっと地球からの電波がはいってきた。
〈遠い宇宙基地で活躍中のみなさま。この放送をお聞きのことと思います……〉
 いつもこの言葉ではじまる。
「この放送を聞いていない宇宙基地など、あるものか」
 ひとりが言うと、みんなは笑いながらうなずきあった。アナウンサーの声はつづいた。
〈きょうはまず、とくに重要な放送をお送りします。ひとことも聞きもらさないよう、ご注意ねがいます……〉
 みんなは顔をみあわせ、ささやいた。
「なんだろう。いつもの口調とちがうぞ」
「地球で、なにか悪いことが起ったのでなければいいが」
 からだを乗り出していると、その放送がはじまった。それはこんなふうだった。
〈コ・コ・コ……〉
 みなは目を丸くした。
「なんだ、これは。わけがわからん」
「ニワトリの鳴きまねだろうか。なにかの冗談かもしれないぞ」
「いや、地球の本部が、そんなことをするはずがない。変な悪ふざけで事故がおこったら、とりかえしがつかなくなるからな」
 だれもが首をかしげていると、アナウンサーの言葉が変った。
〈ナ・ナ・ナ……〉
 やはりわけがわからなかった。
「もしかしたら、暗号かもしれないぞ。メモにとっておいて、あとで研究しよう」
 地球からの放送は、このような調子で、つぎつぎとちがった発音を送ってくる。だが、どう考えても、意味のない言葉なのだ。
 そのうえ、電波はしだいに弱くなってゆく。受信機の性能をいっぱいに高め、耳を押しつけても、音は小さくなる一方だった。やがて、ついに聞えなくなってしまった。
 静かになった受信機を見つめ、みなは青い顔になった。
「電波がとぎれた。やはり、地球に重大な異変が起ったにちがいない。問い合せの通信をしても、これでは応答がないだろう」
「暗号表を調べたが、のってない言葉だ」
「コンピューターにかけたが、解読できない。大変なことになったぞ。地球はほろび、われわれは最後の指示もわからぬまま、宇宙基地にとり残されてしまったのだ。どうしよう」
 ため息をつく者、ふるえだす者、泣き出す者が出た。その時、とつぜん受信機が声を出した。ふたたび放送がはじまったのだ。
〈宇宙基地のみなさん。いまの通信は、どこまで聞きとれましたか。全文は「コナルカロフニレコヒニフ」でした。最初の五字しか聞きとれなかった基地は、通信機のアンテナの感度を強くする必要があります。本部に連絡くだされば、そのための資材を貨物宇宙船でお送りします。では、これより本日の地球のニュースを……〉

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