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追跡
日期:2017-12-30 17:48  点击:324
「隊長。このまま地球へまっすぐに帰りますか」
 飛行中の宇宙船のなかで、探検隊員のひとりが言った。隊長は答えた。
「いや。このあたりに、もうひとつ惑星があったはずだ。そこへ寄って調査をし、それから帰還ということにしよう」
 やがて、その惑星に接近する。どこがどうと、はっきり指摘はできないが、なにか陰気な星だった。かつては繁栄したが、死滅にむかいつつあるといった星のようだった。
「どうも印象がよくありません。着陸をやめましょうか」
「いやいや、せっかく来たのだ。古い城のようなのが見える。好奇心をそそられる。ちょっとおりてみよう」
 隊長の命令で、宇宙船は平原に着陸した。操縦士は船内に残り、隊長と部下たちはそとへ出た。古い城がむこうに見える。
 地上から見ると、かなり大きかった。城壁にかこまれ、いくつもの塔を持ち、黒っぽい色をして古びていた。
「おおい……」
 隊員のひとりは、スピーカーで呼びかけた。なんの返事もない。弱々しい太陽の光のもとで、城は静まりかえり、動くものひとつなかった。そのため、えたいのしれぬぶきみさがあった。
「気が進みませんな」
「元気を出せ。さあ、近づいてみよう」
 隊長は命じ、みなは進みかけた。
 その時、城のどこからか小型のミサイルが発射され、隊員たちの前方で爆発した。予想もしなかった事態。
「いかん。宇宙船へ戻ろう」
 みなはかけ足で後退した。応戦しようにも、探検隊だから、たいした武器は持っていない。それに、こっちは侵入者なのだ。交戦はなるべく避けたほうがいい。
 またしてもミサイルが発射され、みなの近くで爆発した。隊員たちは逃げながら、ぞっとしたものを感じた。あの暗い城のなかに、そとをうかがっているやつがいるのだと思うと……。
 交渉に入ることができれば、こっちに敵意のないことをわかってもらえるかもしれない。しかし、そのきっかけはえられそうになかった。また、あのミサイルの発射は、まさに問答無用といったところだった。つめたい拒絶を示している。
 逃げる隊員たちの、うしろ、右や左などで、ミサイルがつぎつぎに爆発した。もし宇宙船に命中したら、地球へ帰ることができなくなり、ここで野たれ死にをしなければならない。あたりに食用になりそうな植物はない。城の連中がてあつくもてなしてくれるとは思えない。
 みな息をきらせて、宇宙船へかけこんだ。操縦士はただちに離陸にかかった。あたりにミサイルの爆発するなかを、なんとか脱出できた。大気圏外に出ても、隊員たちはまだ青ざめたままだったが、やっと息をつけた。
「ああ、あぶなかった。一時は、もうだめかと思った。不意うちで発射してきたのだからな。なんというやつらだ。われわれは、ただの平和的な探検隊だというのに」
「悪質な侵入者と誤解されたのかもしれないな。しかし、全員無事で運がよかった。やつらのねらいが少し狂っていたおかげだ。そうでなかったら、みなやられていただろう」
 しだいに気分が落ち着いてくる。
「よく助かったものだ。ふしぎなくらいです。もしかすると、ねらいが狂ったのでなく、わざとはずしていたのかもしれない」
「どういう意味だ」
「追い返すのが目的だったとも考えられます。われわれを殺すつもりはなく……」
「そうかね。あの陰気な星のやつらが、そんな親切心を持っているとは思えないがね。追い返したら、武器をととのえて再び来襲することもあると考えないだろうか」
 だれかが後方の窓をのぞいた。遠ざかりつつある星を見て、悪夢からぬけ出せたことをたしかめたかったのだろう。しかし、彼はたちまち声をあげた。
「あ、なにかがあとを追ってくる……」
 隊長は望遠鏡をのぞいた。灰色をした金属製らしい球形のものが、宇宙船のあとからついてくる。あの惑星に着陸する前に、あんなものはなかった。だから、いまの星から発射され、あとを追ってきたのだと推定できた。
「正体は不明だ。危険物のようでもある。そう思って注意したほうがよさそうだ」
 また船内に不安が戻ってきた。
「すると、さっきの星のやつら、目のとどかないところへわれわれを追いやり、そこで殺そうというつもりだったのか。なにが親切だ。目の前で血を見るのはいやだが、殺すのは好きだ。そういう考え方の持主だったのか。どうしましょう」
「船内に|隕《いん》|石《せき》破壊用のミサイルがあったはずだ。引きつけて、それを発射しろ」
 引きつけようと速度を落したら、その物体も速度を落した。ミサイルを発射してみる。正確に命中するはずだったが、その手前で進路を狂わせられた。何度やっても同じ。ミサイルを防ぐ装置がついているらしい。手ごわいもののように思えてきた。
「速度をあげて、あれを引きはなそう」
 宇宙船はしだいに速度をあげ、また方向を変えてみた。しかし、物体は一定の距離をたもって、あとにくっついてくる。
「送りオオカミのようだな」
「なんのことです、それは」
「オオカミが旅人を襲う時に、こんなことをやる。近よることなく、どこまでもどこまでも、あとをつけてくる。人は疲れてきて、いつかは眠らなければならない。眠れば武器も役立たない。かならずやられてしまう」
「いやな作戦ですね。追いかけるのをあきらめてくれればいいが……」
 後方を見ると、物体は依然としてあとをつけてくる。どんなしかけになっているのか不明だが、ふり切ることは不可能のようだ。
「ミサイルもきかず、ふりはなすこともできない、いやなものをしょいこんでしまったな。どこまでついてくるつもりだろう」
「もしかしたら……」
 ひとりがふるえ声で言った。
「なにを思いついた」
「地球までついてくるつもりかもしれない。そして、そこで爆発する。あれが高性能の核爆弾だったら、地球上は全滅です」
「そうとしたら、ことだ」
 その重大さに、だれもが気づいた。あの星でのことを思い出してみる。宇宙船をやっつけるつもりなら、容易にできたはずだ。それなのにやらず、帰還を許した。そして、そのあとをつける。少人数を殺すのではあきたらず、帰りついた星そのものを全滅させようというつもりのようだ。なんという恐ろしい計画。
「となると、地球を救うには、われわれが犠牲にならなければならないわけか。いずれにしろ、われわれは助からない」
「あれが危険なものであったらね」
「安全なプレゼントである可能性はないかな。さっきの星のやつら、なにかの原因で、からだがみにくくなり、滅亡しかけている。姿をあらわすことなく、文化遺産を渡したがっていた。そのために、このような手のこんだことをした。心配させておいて、あとで喜ばせる。そんなことだといいのだが……」
「まあ、ありえない話だろうな」
「その仮定を考えついたわたしだって、そうとは信じられませんものね。あの陰気な城の住人が、そんなしゃれたことをやるとは……」
 消えてくれればいいと思ってふりむくが、それはいつも後方にいる。つかずはなれず、ぶきみにあとをつけてくる。
「隊長、なんとかしてください。このままでは頭がおかしくなってしまいます」
「よし、危険かもしれぬが、ひとつやってみよう。どこか無人の惑星に着陸するのだ。すぐ離陸できる態勢でだ。あれが落下しはじめたら、われわれはすぐ飛び立つ。あの物体の正体がわかるだろう」
 乗員たちは助かる可能性が多いし、地球に危害が及ぶこともない。やってみる価値はあった。氷結した惑星をみつけて着陸する。緊張しながら変化を待った。しかし、問題の物体は、はるか上空に静止したまま。レーダー係が監視をつづけているが、動くけはいはなかった。
 宇宙船はそこを出発した。すると、待っていたかのように、物体はまたあとを追いはじめる。
「だめでしたね。だまされませんよと言わんばかりだ。まるで、だれかが乗り込んでいるかのようだ」
「しかし、爆弾なら、人は乗っていないはずだ。なにか生存可能な星かどうかを識別する装置をつんでいるのだろうか」
「あれが爆弾なんかでなく、われわれの反応を調べるだけのものだったらなあ」
 と、だれかがため息をついた。
「調べてどうするのだ。われわれはあれを、ミサイルをぶっぱなしたり、危険物あつかいしてしまった。もはや好意的になってはくれないだろう。また地球までついてきて、あわれな状態だったら、みのがしてくれるかもしれない。しかし、景気がよさそうだとわかったら、どうなる。あの陰気な星のやつらの考えることだ。いい結果になるとは思えない。どかんとなるのだろうな」
 隊長は地球へ無電連絡をした。
〈妙な物体につきまとわれ、どうにも手におえません。どうしましょう〉
〈よし、武器をつんだ宇宙船を応援にやる。それまでがんばってくれ〉
 地球の本部は、簡単に片がつくと思っていたようだ。応援の宇宙船が到着し、各種の武器がこころみられた。強力なミサイルが発射され、磁力をおびた浮遊爆弾が使われ、レーザー光線が集中された。いずれかが効果をあげるはずだった。しかし、だめだった。ミサイルはそれ、磁力爆弾は遠くで爆発し、レーザー光線はきかなかった。高度な防御装置をそなえているらしい。だれもががっかりした。
 しかし、応援に来た宇宙船は、ある役に立った。隊員たちはそれに乗り移り、いままで乗っていた宇宙船を、自動操縦で発進させてみた。物体はそのあとをついて行く。
「みろ、うまくいったぞ」
「これで、われわれも地球も助かった。ばんざい」
 歓声があがる。すべての不安は思い出話に変り、地球へと帰りつくことができた。危機は去ったのだ。
 ……と思えたのだが、そうではなかった。地球のレーダーが、なにかをとらえた。
「正体不明の物体が、宇宙空間を地球に近づいています」
 関係者の頭をかすめたいやな予感は、たちまち現実のものとなった。あの物体だったのだ。
「むこうも、それほど甘くなかった」
「地球と無電で交信したのがいけなかったのかもしれない。あるいは、無人の宇宙船のあとをつけるふりをして、こっちを油断させ、戻ってきたのかもしれない。もっと慎重にやるべきだった。ついに地球をつきとめられてしまった」
「どうなるのだろう」
「わかるものか」
 例の物体は、地球の上空に静止している。宇宙船が飛び立ち攻撃したが、もちろん無効だった。また、その宇宙船のあとを追って動いてもくれなかった。おまえらの星はここだとわかったぞ、と言わんばかりに。
 隊員たちの報告をどう検討しても、あれが好意的なものとは思えなかった。プレゼントのたぐいなら、そうであることを示してくれていいはずなのに、ずっと上空にとどまっている。希望的な仮説は、うすれていった。
 不安はたちまち地球上にひろがった。爆弾だか毒ガスだか、あるいはさらに危険なものが、いまにも落下しようとしている。
 だれもが覚悟をきめた。しかし、なかなか落ちてこない。いらいらしてくる。時どき、あれはぶっそうなものじゃないのだと、むりに思おうとする。しかし、安全という根拠はなにもなく、それは依然として上にあるのだ。
 ダモクレスの剣だった。むかし、ある暴君がいた。ある日、ダモクレスという家臣が、王の生活をうらやむ。すると王は、ではそれを味わわせてやろうと王の座にすわらせる。ダモクレスは美衣美食、満足しながらふと上を見ると、鋭い剣が一本の馬の尾の毛でつり下げられてあった。王の栄華は死ととなりあわせだというたとえ。
 いまや全人類がダモクレスとなった。なにを食べても味どころでなく、なにをやっても楽しいどころでない。といって、なにもしないでいると、ますます頭の上のことが気になる。もう、どうにもこうにもならなかった。平然としていられる者はいない。
 
 あの陰気な惑星の、暗い古い城のなかで、いじの悪い声が話しあっている。
「あの追跡装置、うまくいっただろうな」
「もちろん、そのように作られているのだから、いまごろは効果をあげているはずだ」
「どっちの方角の、どんな星なのかは知らないが、住民たち、あのなかがからっぽとは気がつかず、はらはらしているぜ」
 低い笑い声。
「はらはらを通り越して、かなり狂いはじめたのじゃないかな。目に見えるようだ。それを想像し、われわれはここで楽しんでいる。こういう雄大ないじわるを考えついたのは、宇宙ひろしといえど、ほかにいないのではなかろうか」

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