「あの星がどんな状態なのかを、調査しなければならない。われわれ人間が行っても、この地球上と同じように暮らせるかどうかを、知りたいのだ。しかし、探険隊を乗せた宇宙船を送るのは大変だ。作るのにも飛ばせるのにも、巨額な費用がかかる。なにか、いい方法はないものだろうか」
といった問題をめぐって、宇宙研究所の学者たちが相談していた。みな、困ったような顔をしていた。なかなか、名案が浮かばないのだ。その時、エフ博士がやってきて発言した。
「あります。こんなこともあろうかと、まえから、わたしが研究していました」
「いったいどんなことなのですか」
ほかの学者は身を乗り出した。エフ博士は、そう大きくはないが細長いロケットを手にして言った。
「あの星にむけて、これを送るのです。なかには頭をさきにして、ヘビが一匹はいっています。サルや犬とちがって、ヘビは細長いので便利です」
「ヘビとは変わった思いつきですが、まあいいでしょう。しかし、途中でのエサは、どうするのです」
「その必要は、ありません。大気圏を抜けて宇宙の空間に出ると、温度が下がり、ヘビは冬眠に入ります。だから、エサなしでも、生きたまま、むこうの星へ到着できるのです。また、冬眠中はあまり呼吸をしませんから、酸素を大量に積まなくてもすみます」
「そして、むこうへ着くと、しぜんに冬眠からさめるというわけですか。それから、どうなるのです」
「いま、お目にかけましょう」
こう言いながら、エフ博士は持っていたロケットを床に置いた。先端の部分が開き、笛の音が響きはじめた。録音テープが、回りはじめたのだ。その音につれて、ヘビがなかからはい出してきた。エフ博士は、とくいげに説明した。
「インドのヘビ使いから思いつきました。笛の音を聞くと外へ出てくるように、ヘビを訓練したのです」
ヘビはあたりを動きまわっていた。だが、やがて笛の音がやむと、ロケットへ戻り、頭からもぐりはじめた。
「ヘビには、穴へ入りたがる習性があるのです。また、ロケットの奥にはエサもおいてあります。かくして、ヘビが戻ってエサを食べると、ふたたび先端の部分が閉じ、ロケットは飛び立ち、自動的に地球へと帰ってくるしかけになっているのです」
「なるほど。これで無事に戻ってくれば、ヘビが行っても大丈夫、すなわち、人間が行っても安心と、判断できるわけですね」
「そうです。わたしたち人間にかわって、ヘビが身をもって調べてきてくれるのです」
みなは、感心してうなずいた。しかし、ひとりが気になる点を質問した。
「こんなことはあまりないでしょうが、たまたま着陸した場所が噴火口のなかだったとか、ロケットから出たとたんに猛獣にふみつぶされたりした場合は、困りますね」
「もっともな心配です。しかし、その問題はロケットを一台だけでなく、何台か送れば解消すると思います。みながみな、そんな不運な事故にあうこともないでしょう。要するに、一匹でも帰ってきてくれれば、その星の安全性が確認できるのですから」
学者たちは、この案に賛成した。探険隊を送るより、はるかに安上がりだし、人間が危険をおかさなくてもすむ。さっそく十台ばかり作られた。それぞれにヘビが入れられ、ロケットはめざす星に向けて、つぎつぎに発射された。
あとは、帰るのを待つばかり。だが、予定の日がすぎ、いくら待っても、一台も帰ってこなかった。
「どうもだめだったようだ。ロケットから出たとたん、ヘビたちは死んでしまったのだろう」
「気の毒な気もするが、結果は得られたのだ。人間が行っても、生存に適さない状態であることが、判明した。あの星への大がかりな探険計画は、当分のあいだ延期して、べつな星を目標とすべきだ」
地球上でこのような会話がかわされている時、ヘビたちはどれも、まだ死なずにいた。生存に適さないどころか、地球以上に、生きるのにつごうのいい星だったのだ。食物となるものは、いくらでもある。たとえばカエルにしても、地球のより肉づきがよく、味もいい。ヘビたちはロケットから出たとたん、それらを思う存分に食べはじめたのだ。
ロケットの奥にあるエサなど、どのヘビも見むきもしない。また、たとえそれを食べる気になったとしても、腹が大きくふくれていては、入口でつかえて、もぐり込みようがないのだった。