オロ星の悲劇
キダは腕時計をのぞいて、オロ星人のデギに言った。
「こんな穴のなかでは、落ちついて話もできません。わたしたちの宇宙船においでください。外は夜で、あのぶっそうな鳥も眠った時間です」
「そうですね」
と、デギは冬眠箱の番を赤い玉にまかせ、みなといっしょに宇宙船に来た。そして、プーボの作った食事を食べ、あたりを見まわしながら言った。
「なかなかりっぱな宇宙船ですね。どこの星からいらっしゃったのですか……」
キダはあらましを説明した。自分たちは地球という星のもので、科学を高めて宇宙へ進出し、近くの星々に基地を作るまでに発展したことなどを話してから、
「……それよりも、オロ星の話を早く知りたいものです。さぞ文明が進んでいることでしょう。その、ひたいにつけるだけで、言葉が通じるようになる装置など、すばらしいではありませんか」
「あるいは、少しは進んでいる点があるかもしれません。しかし、いまや文明どころではない、大変なことになりかけているのです。思いがけない不幸に襲われたのです」
「いったい、なにが起こったのですか」
と、ミノルとハルコは身をのり出した。
デギの話によると、こうであった。
オロ星も地球と似たような歴史をたどってきた。星の上でおたがいどうし争った時代もあったが、それを止め、力を合わせて宇宙へと進出しはじめたのだ。
オロ星人たちは、近くの星々に基地を作り、役に立つ鉱物など、多くのものを発見した。すベては順調に進んでいた。
また、珍しい植物もいくつか採集してきた。オロ星の学者のなかに、ちがった星々から集めた植物をかけあわせ、新しい品種を作る研究にとりかかった人があった。
学問的に面白い研究であり、それはついに成功した。しかし、とんでもない植物ができてしまったのだ。役に立たない雑草といった簡単なものではない。あらゆる植物の悪い点ばかりを、すべてそなえた植物なのだ。
見たところは大きなツタのようで、どんどん育ってのびていく。途中で、ちょん切っても、切られた部分が根をおろし、そのまま育つのだ。
大きな葉はネバネバした液を出していて、近よる動物をくっつけ、食べてしまう。花は変なにおいを出し、それを吸うと頭がぼんやりしてしまう。
茎にはとげがあり、それで刺されると、毒のために死んでしまう。つるに巻きつかれてしめつけられると、丈夫なビルでさえこわされてしまう。なにしろ、大変な植物だった。
研究所は、たちまち破壊されてしまった。植物は育ちつづけ、広がり、近くの農作物も家畜もやられていった。人びとは、町を捨てて逃げなければならなかった。このままだと、オロ星はこの植物に占領され、あらゆる生物がほろんでしまうことになる。
もちろん、オロ星の人たちも、ぼんやりしてはいなかった。いろいろな方法で、この植物をやっつけようとした。しかし、高熱の火で焼きはらっても、地下に根が残っていて、ふたたびはえてくる。
そのうち、想像していた以上におそろしい相手であることがわかってきた。その植物には知能があるらしいのだ。
はじめのうちは火で焼きはらうことができたが、やがて、それがきかなくなった。おそらく、根で地中から金属成分をからだにとりいれ、高熱にたえられるような、茎や葉になってしまったのだろう。
強い電波をあてると、植物は弱まり、枯れていった。しかし、まもなくそれもきかなくなり、植物は勢いをとり戻して、生長しつづけるのだ。
手のつけようがなく、とても防ぎきれない。ききめのある武器を作っても、植物はすぐそれにたえる性質に変化してしまうからだ。悪い心と、ずるい頭と、すごい力とを持った強敵なのだ。
しばらくすると、もっとひどいことになった。植物は、熱にも薬品にもおかされない種子を作り、タンポポのようなフワフワしたものをくっつけ、風にのせて飛ばしはじめたのだ。これでふえようというのだ。
オロ星の人びとは必死に戦ったが、勝ちめはなく、徐々に滅亡にむかっている。
オロ星人たちは相談し、大急ぎで海底に都市を作り、そこに逃げこんだ。しかし、その内部で、みなが生活できるような、大きな海底都市が、そうすぐに完成するわけがない。なかで冬眠状態になるのがやっとだった。
そして、一部の学者たちは、オロ星の月の基地へ移住した。そこで植物を退治する方法を研究しようというのだった。
海底都市には、警戒のため、冬眠していない係員が残っており、月の基地とは、無電で、連絡しあっている。
〈こちらは海底都市。植物を退治する研究の進みぐあいはどうですか〉
一日に一回は、このような通信が月へと送られてくる。しかし、月からの返事は悲しい文句なのだ。
〈まだ成功していない。みないっしょうけんめいに、やってはいるのだが……〉
〈早くお願いします。このままだと、オロ星人のすべては、永久に冬眠しつづけなければなりません〉
海底都市からはせかされるが、月での研究ははかどらず、植物はオロ星の地上をおおう一方だった。
そこで、月の基地の学者たちの何人かは、宇宙船に乗って、思い思いの方角にむけて、宇宙ヘと出発していった。文明の進んだ星の住民をさがし、その助けをかりようというのだ。
デギはこれらのことを、小型の映写機でうつして見せながら説明した。そして言った。
「というわけです。わたしはそのひとりで、宇宙を飛びつづけました。しかし、宇宙船が事故を起こし、この星に不時着してしまったのです」
キダはうなずいて言った。
「そうでしたか。それは大変なことですね。お気の毒なことが、よくわかりました」
「しかし、ほっとしました。地球人のみなさんと、こうして知りあいになれたのですから、ぜひ、わたしたちオロ星のために力をかしてください」
デギはうれしそうだった。しかし、ミノルもハルコも顔を見合わせた。とてもおそろしい植物のようだ。キダは言った。
「お役に立つことがあれば、もちろんお手伝いします。しかし、わたしたち地球人に、どんなことができるか、ちょっと自信がありません」