狂った計器
ノブオたちの乗った宇宙船がガンマ星へ近づくと、操縦士は望遠鏡で星座を調べ、いそがしそうにハンドルをまわした。ノブオはフジタ副所長に聞いた。
「宇宙船というものは、自動操縦で動くはずでしょう。これは旧式なのですか」
「いや、そこなんだよ、問題は。以前は自動操縦でよかったんだが、五ヵ月ほど前から、計器がみんなおかしくなった」
「なおせないんですか」
「なおしたくても、故障の原因がわからないのだ。そのため、計器まかせの自動操縦にしておくと、気がつかないあいだに、宇宙船はとんでもない方向に進んでいってしまう。だから、いちいち目で星を見て、手でハンドルを動かさなければならないのだよ」
「そうだったのですか」
ガンマ星の基地にある空港への着陸も、また大変だった。地上では何人もの人が、赤や青の旗を振って合図している。それに従って、宇宙船はゆっくりとおりる。計器が信用できないので、自動的にいかないのだ。
このガンマ星は、水もあり植物もあり、鉱物の資源もある。だから、その開発でさぞ活気にあふれていることだろうと、ノブオは考えていた。だが、着陸して見まわしてみると、それほどでもない。働いている人が、あまりいないのだ。宇宙船から出て、ドーム状の本部の建物へむかう途中、ノブオはミキ・ユキエ隊員に聞いてみた。
「なんだかさびしい感じですね。みんな、どうしてしまったのですか」
「これも計器のぐあいがおかしくなったためなのよ。基地の計器はみんな狂っているの。知らないまに健康診断器のメーターまで変になっていて、健康な人たちをみんな病気と診断しちゃったの。それをなおそうとして、薬をどんどん飲ませたので、多くの人がほんとうの病気になってしまったのよ」
本部の部屋のなかには、ベッドが並べられ、基地の人たちが横になっていた。また、なんとか働いている人も元気がない。計器が使えず、なんでも目と手でやらなければならないため、注意のしつづけで疲れきっているのだ。
「驚いたなあ。もし、こんなことが地球で起こったら……」
と、ノブオは言った。地球上の計器がみんな狂いはじめたら、大変なさわぎになる。工場も交通もすべて止まってしまうのだ。フジタ副所長は大きくうなずいた。
「そうなんだ。基地の隊員は訓練されているため、まだ大事故も死者も出ていないが、仕事は完全にストップだ。だから、少しでも早く、その原因をつきとめなければならないのだ」
「手がかりはないのですか」
「特殊な電波のためと考えられるが、それ以上のことはわからない。その電波が、どこからくるのかもわからないのだ。調べようにも、第一、計器がたよりにならないし……」
副所長はため息をついた。ノブオは、思いついたことを言った。
「自動操縦にまかせて飛ぶと、宇宙船が変な方向へ進んでしまうというのでしょう。それなら、こうしてみたらどうでしょう。その狂った計器にまかせて、そのまま宇宙船を進めてみたら。どこかへ行きつくでしょうし、そこでこんなことになった原因が見つかるんじゃないでしょうか」
「ノブオくんもそう思うか。じつは、そのために、すでに八台の調査宇宙船を出発させている。しかし、まだ成果をあげていないのだ。そのうちの四台は不安そうなようすで帰ってきて、報告はどうもはっきりしない。かんじんの記憶を失っているのだ。あとの四台はなんの連絡もない」
「ぼくのお父さんは、まだ戻らないほうなのですね」
ノブオはそれが心配だった。副所長は感情を押えた声で言った。
「そうだ。しかし、ほかに方法も思いつかない。そのため、九台目の宇宙船を出発させる。わたしが行きたいところだが、所長も病気になり、それもできない。ミキ隊員が行く。このように危険な任務だが、ノブオくんもいっしょに行くかね」
「行きますとも」
ノブオは、はっきり答えた。
ガンマ星の見物などしているひまはなかった。準備が進められ、二日後に出発となった。宇宙船の名はガンマ九号。乗っているのは、ミキ隊員とノブオと犬のペロ。
冒険への覚悟はしているが、ノブオはまだ少年。心のなかでは、不安だった。原因もわからずに狂っている計器にまかせて、自動操縦で宇宙に進むのだ。どこへ行くことになるのだろう。そこには、なにが待ちかまえているのだろう。