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まぼろしの星(03)
日期:2018-01-06 17:03  点击:271
黄色い花
 
 
 あてのない旅が、何日かつづいた。突然ミキ隊員が言った。
「ノブオくん。前のほうに星が一つ見えてきたわ」
 望遠鏡でのぞくと、灰色の岩ばかりの星だった。そこに着陸してみることにした。
 ふたりは宇宙服をつけて、外へ出た。なんの物音もせず、目につくものといえば、ところどころに咲いている黄色い草花ぐらいだ。まわりが殺風景なためか、花が美しく見える。
「この星にあるのは、花だけのようね」
 ミキ隊員は、それをつんで花束を作った。ノブオは、肩にかけたカメラで、あたりをうつしていたが、そのうち言った。
「あ、むこうの岩山に穴があります。行ってのぞいてみましょう」
 花ぐらいしかない星の岩山に、なぜ穴などがあるのだろう。ふしぎがりながら近づくと、穴の奥の暗やみで、なにかが動き、外へ現われた。
 大きなヘビだ。直径が一メートルぐらいあり、とても長い。からだは銀色をしていて、赤い点がもようのようについていて、目はみどり色に光っている。気持ちの悪いヘビだ。
「わあ、出た。大変だ」
 ノブオは叫び、腰の光線銃を手にしてうった。しかし、使い方になれていないので命中しない。ヘビは、こっちへむかってくる。
 ミキ隊員は、さすがに落ちついていた。ねらいは正しく、光線はヘビに命中した。しかし、相手はびくともしない。きっと岩を食べているヘビなので、熱に強いのだろう。ノブオは足がふるえ、歩けなくなった。泣こうとしたとき、ミキ隊員の声が聞こえた。
「ノブオくん、早く宇宙船へ戻るのよ。ヘビの動きはにぶいから、大丈夫よ」
 そのとおりだった。大ヘビは、こっちへむかってくるが、ゆっくりなのだ。こっちのほうが早い。ノブオは逃げながら、カメラのシャッターを押すこともできた。
 ふたりはガンマ九号へ戻り、急いで飛び立った。ほっとして宇宙服をぬぐ。
「けっきょく、おみやげは、この花束だけというわけね」
 ミキ隊員は、花を机にかざった。それから、宇宙船で星のまわりを飛んだ。上空からくわしく調べようというのだ。
 ミキ隊員は、窓から外をながめていたが、そのうち下を指さして言った。
「ノブオくん、この灰色の星へ着陸してみましょうよ」
 この星とは、いま飛び立ったばかりの星のことだ。だが、ノブオは少しもふしぎそうな顔をせず、すぐ賛成した。
「ええ、そうしましょう」
 これは、どういうことなのだろう。もし、だれかがそばで見ていたら、きっと目を丸くしたにちがいない。さっき着陸し、大ヘビに出会い、逃げて飛び立った星に、もう一回おりようというのだから。しかし、ふたりは、それを少しもおぼえていないのだ。だから、はじめての星のつもりで、宇宙船の高度を下げてゆく。
 ふたりに、こんなことが起こった原因は、星でつんできた黄色い花だった。そのにおいのなかに、星の上で、見たり、行なったりしたことの記憶を失わせる成分がふくまれている。
 宇宙船は、やがて着陸するだろう。ミキ隊員とノブオとは、宇宙服をつけて外へ出ることになる。そして、花をつむだろう。それから大きなヘビに追いかけられ、あわてて逃げまわり、宇宙船で飛び立つことになる。
 だが、ほっとして宇宙服をぬいだとたん、つんできた花のにおいをかぎ、それらのことをすっかり忘れてしまうのだ。振り出しに戻って、また同じことをくりかえす。いつまでたっても、この星から離れられないことになる。目に見えぬワナにかかったようなものだ。
 しかし、その時、犬のペロが大声でほえはじめた。
「どうしたんだい、ペロ……」
 ノブオが声をかけたが、ペロはカメラにむかってほえつづける。顔をなでてやっても静かにならない。ミキ隊員は首をかしげた。
「変ねえ。なぜカメラにほえるのかしら。着陸する前にそのフィルムを現像してみましょうよ」
 フィルムには、星へおりて花をつんでいるミキ隊員の姿がうつっている。
「あら、あたしがうつっているわ。なぜでしょう」
「それに、こんな大きな、気持ちの悪いヘビも……」
 ふたりはぞっとした。自分のカメラに、見たこともないものが、うつっているのだ。
 ミキ隊員とノブオとは、長いあいだ考え、話し合った。そのうち、机の上に枯れかけている花のあるのをみつけた。そして、やっと花のにおいのせいにちがいないと知った。ミキ隊員は、言った。
「この花が原因だったのね。基地に戻った隊員たちが、だれもはっきりした報告をせず、わけもわからずに不安そうなようすだったのは」
「きっと、そうですよ」
「同じことを、何回もくりかえしてしまう。しかし、大ヘビに追いかけられたショックは心の底に残り、記憶していなくても、こわい気持ちだけが高まる。最後には、たまらなくなって、ガンマ基地へ逃げ帰るのよ」
 そんな目に会ったら、さぞいやなことだろう。こわい目に会うのだが、すぐそれを忘れ、また同じようにこわい目に会うのだ。燃料はへり、宇宙船のなかに枯れた花がふえてゆくが、なぜそうなるのかもわからないのだ。
「ぼくたちが早く気がついたのは、ペロのおかげですよ。犬には花のにおいがきかないのでしょう。おまえにも、いいところがあるよ。宇宙に出てから急に利口になったみたいだね」
 ノブオは、ペロをだきあげた。ペロがほえてくれなかったら、どうなっていただろう。そして、気になるのはお父さんのことだ。
「この星から基地へ引きかえさなかった調査宇宙船は、どうなったのでしょう……」
「途中で気がついたか、この星を上空からながめて、なにもなさそうだと着陸せずに進んでいったかでしょう。さあ、あたしたちも、もっと先をめざしましょう」

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