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まぼろしの星(07)
日期:2018-01-06 17:06  点击:303
不時着
 
 宇宙船ガンマ九号は、どこかの宇宙人の作った遊園地のお城をあとに、ふたたびあてもない旅をつづけた。ノブオが言った。
「変なお城でしたねえ。ぼく、からだがちぢんだり、もうひとりのぼくが現われたりして、ほんとにびっくりしちゃった」
「あんなものをつくった宇宙人、どこにいるのでしょうね。それをつきとめることができれば、すべてのなぞがとけると思うんだけど……」
 ミキ隊員は窓の外を見ながら、首をかしげた。まぼろしの星は、このたくさんの星のどれだろうと考えているのだ。
 宇宙の旅の途中は、することがなく、退屈なものだ。しかし、ノブオはお父さんのことが心配であり、また、これからどんな事件にめぐり会うのだろうかと考え、落ちつかなかった。ペロと遊んで気をまぎらわすほかに、することがなかった。
 突然、はげしい物音がし、宇宙船がふるえた。なにかがぶつかったらしい。警報のサイレンが鳴りひびく。ノブオはあわてた。
「どうしたんでしょう……」
「隕石がぶつかったのかもしれないわ。レーダーで防げるはずなんだけど、装置のぐあいがおかしかったので、こうなってしまったのね」
「この宇宙船の計器は、はじめからずっとおかしいんですよ」
「どこをやられたか調べてみましょう」
 ふたりは宇宙船の内部をまわった。そして、事故に会った場所をみつけた。うしろのほうの貯蔵室をやられている。かたいものがつきぬけていったのだ。
 燃料タンクがやられている。予備の電池や部分品もやられている。それを見てふたりは青くなった。このままでは、宇宙を飛びつづけることができない。基地へ引きかえすこともできないのだ。
 宇宙のなかを永久にただよいつづけることになるのだろうか。救助信号の電波を出し、冬眠剤を飲んで待つという方法もあるが、かならず助かるかどうかはわからない。基地ではいま、異変のために、人手がたりなくて困っているのだ。救助隊を出せないかもしれない。
「これから、どうしましょう」
 ノブオが心細い声で聞くと、ミキ隊員は言った。
「ひとまず、どこか近くの星に着陸し、そこでゆっくり計画をたてましょう」
 望遠鏡でのぞくと、そう遠くないところに二つの星があった。一つは、小さな凍りついた星であり、一つは、あたたかく植物もあるらしい星だった。どうせ着陸するのなら、あたたかい星がいい。
 ミキ隊員は宇宙船の針路をそっちにむけた。しかし、しばらくすると、どうもようすがおかしい。めざす星に近づかないのだ。ハンドルをそちらにむけて固定したはずなのに、ガンマ九号はいつのまにか氷の星のほうに進んでいるのだ。
「変ねえ……」
 ハンドルをもう一度もとに戻し、ちゃんとなおしたが、やはり氷の星にむかってしまう。宇宙船の計器がしぜんにそうなってしまうのだろうか。それとも、氷の星がなにかの力で、宇宙船を引きよせているのだろうか。
 ノブオは言った。
「手で押えて操縦しましょうか」
 しかし、ミキ隊員は命令した。
「これには、なにか意味があるかもしれないわ。こうなったら運命に従いましょう。氷の星をめざすのよ」
 ガンマ九号は、その凍りついた小さな星に、なんとか着陸した。寒く暗く、すべてが氷におおわれ、なんの物音もなく、青白いながめが広がっているだけだ。さびしく荒れはてた景色なのだ。
「なんにもない、いやな星ですねえ。ひとを引きつけておきながら、着陸してみると、こんな調子だ。そうと知ってたら、むりしても、あたたかい星に行くべきでしたね」
 ノブオは文句を言った。
「いまさらしかたがないわね。ひと眠りしましょうよ。すべては、それからよ」
 ミキ隊員にいわれて、ノブオは眠ろうとしたが、頭がさえるばかりだった。こんなところに、不時着して、これからどうなるのだろうと考えると、不安でならなかった。
 助けはいつ来るかわからず、ロケット部分がこわれ、燃料もないので、ここから飛び立つこともできないのだ。
 やっと眠ったら、夢を見た。このなんにもない氷の星から逃げられず、ここでとしをとり、おじいさんになってしまった夢だ。
 だが、その夢はペロのほえる声で破られた。びっくりして起き上がると、ペロはまだほえている。窓の外にむかって、ワンワンと言っている。
 ペロもさびしくて、ほえたのだろうな。ノブオは、そう思いながら、なにげなく窓の外をのぞき、大声をあげた。
「あ、あれはなんだろう……」
 はてしなくつづく氷原の上を、なにかが動いている。ノブオは、これも夢のつづきではないかと思った。こんな星に動くもののあるはずがない。
 だが、目をこすって見なおすと、たしかになにかだ。黒く丸いものだ。ころがっているのか、すべっているのかわからないが、むこうのほうに遠ざかっていく。
 ミキ隊員も起きてきた。
「叫んだりして、どうしたの。なにがあったの……」
「ほら、あれ……」
 ノブオは指さした。ミキ隊員も、それを見た。しかし、もっとくわしく見ようと望遠鏡をさがしてきた時には、その黒いものは、もう地平線のかなたに消えてしまっていた。
「あれは、なんだったのでしょう……」
 ノブオは言い、ふたりは顔を見合わせ、ぞっとした。氷におおわれて、生物の住めない星なのだ。着陸前に上から見たが、なにもみあたらなかった。
 それなのに、いまたしかに動くものがあったのだ。なにものなのか、見当がつかず考えているうちに、からだが、ふるえてきてしまうのだった。
 ミキ隊員が言った。
「こうなると、いまのものの正体をつきとめるまでは、冬眠剤を飲むわけにいかないわね……」
 救助を待って、眠っているあいだに、そのなにものかに襲ってこられたら、大変なことになる。戦うこともできず、二度と目がさめないことになってしまう。
 だが、ガンマ九号はもう、ここから飛び立って、逃げるわけにもいかないのだ。どんな危険な相手でも、たちむかう以外にない。
 ふたりは黒い玉の消えた地平線のほうを、ずっとながめつづけた。だが、戻ってくるようすもない。
 しばらくすると、その方角で、なにか白いものが立ちのぼりはじめた。ノブオは言う。
「なんでしょう。煙のようだけど……」
「でも、一面の氷におおわれた星よ。燃えるものなんか、ないはずだわ。思いきって行って調ベましょう」
 ふたりはすぐに出かけることにした。ほかにすることもないのだ。宇宙服に着がえる。ペロは留守番。犬の着る宇宙服がないからだ。
 スケートをはき、氷の上をすべるのは、面白かった。しかし、むこうに、なにが待ちかまえているかと思うと、ノブオは胸がどきどきした。
 近づくにつれ、それが煙でないことがわかった。ゆげが立ちのぼっているのだ。まわりが寒いので、水蒸気が霧になり、もうもうと立ちこめている。そのため、なにが起こっているのか、さっぱりわからない。
「どうなっているんでしょう」
「勢いよく氷がとけてるようね。火山の噴火か、温泉が吹き出してるような感じだけど、こう突然に起こるとも思えないし……」
 しかし、そのうち、ゆげがおさまった。そして、そのあとに想像もしなかったものがあったのだ。
 いろいろな品物が並んでいる。宇宙船燃料もあるし、宇宙船を修理するのに使えそうな材料もある。食料らしいものもあるし、わけのわからないものもある。ミキ隊員が言った。
「氷の下から、デパートがあらわれたみたいね。あたしたちの願いが、だれかに通じたようで、まるで夢だわ」
 だが、夢ではなく現実だった。手でさわっても消えない。こんなありがたいことはなかった。
 そばには、黒い玉がころがっている。直径が一メートルぐらいだった。宇宙船から見てふしぎがったのは、これだったのだろう。
 近よってみると、外からではわからないが、なにか精巧なしかけがあるようだった。温度計をくっつけてみると、あたたかい。ノブオは言った。
「どうやら、この黒い玉が氷をとかし、品物を出してくれたようですね」
「きっと、救急用の装置といったものなのかもしれないわ」
「もっとわかりやすく説明してください」
「冷凍食品というのがあるけど、ここには食料ばかりか、なにもかも冷凍してしまってあるのよ。あの黒い玉は、この星になにかがやってくると、近づいてきて調べる。そして、事故にあった宇宙船とわかると、熱を出して氷をとかし、いるものを出してくれるのじゃないかと思うの」
「そうとしか考えられませんね。だけど、なんで、こんなところに作ったのでしょう」
「よくはわからないけど、レーダーにかからない隕石が、このへんに多くて、事故が起こりやすいからかもしれないわ」
 ふたりは宇宙船を修理し、燃料や部品をつみこむことができた。食料らしいものも少しもらった。これで出発できる。
「氷の星よ、ありがとう。さようなら」
 ガンマ九号は飛び立った。それから、さっき着陸しようとした、あたたかい星へ寄ってみた。あたたかいことはたしかだが、けっしていいところではなかった。
 すごい植物がはえている。大きな葉のツタのような植物で、金属をとかす液を出すのだ。ノブオは気がつき、大声をあげた。
「大変です。このままだと宇宙船がやられてしまいます。早く逃げましょう」
 どんどん巻きついてくる植物を、光線銃で焼きはらい、ミキ隊員は、ガンマ九号を出発させながら、言った。
「ひどい星だわ」
「むりにここへ着陸せず、氷の星へ行ってよかったですね」
「きびしい宇宙では、どこが運命の分かれ目になるか、わからないものなのよ。連絡を断った探検隊のなかには、ここへおりて死んでしまった者がいるかもしれない。あの植物にやられると、あとかたもなく消されてしまう」
「ええ……」
 ノブオは心のなかで、お父さんがそうでなかったようにと祈った。
 ガンマ九号は、また宇宙の旅をつづける。ミキ隊員は氷の星でつみこんだ品を調べた。字のようなものがかいてあるのだ。その文字を研究しておけば、いつか、めぐり会うかもしれない、なぞの宇宙人に会った時、役に立つにちがいないからだ。

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