1984・冬 秋田
秋が冬に変り、雪が降って年が変った。そして久しぶりに朋子からの絵葉書が届いた。
�お友だちと一緒に秋田のスキー場に来てます。スキーをやるなんて、何年ぶりかしら。デパートに勤めていた頃が最後です。でも滑ってみると、わりと滑れる。地図のことはだれにも話してません。子どもみたいね。おいしいおせんべえがあったので送りました�
�秋田�のところが赤い枠で囲んである。
去年の暮、部屋の掃除をしたときに壁の地図をはぎ、畳んで本棚のすみに差し込んでしまった。それだけ朋子への思いが薄くなった。
——とにかく最後まで——
捜し出して秋田県の部分を丁寧に赤い斜線でぬりつぶした。
その直後にたまたま恩師の葬儀が山形であり、同窓生を代表して中彦が雪国まで赴いた。
中彦自身は和歌山を残すだけとなった。