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ぬり絵の旅10
日期:2018-03-31 09:42  点击:318
 1986・春 魚津
 
 
 郵便受けを覗《のぞ》くと、柱の太い、豪壮な民家を写した絵葉書が立っている。字を見ればすぐにわかる。
 ——今年は年賀状をもらったかなあ——
 とにかく久しぶりの便りであることはまちがいない。
 小さな字で書いてある。
�またアクセサリーの仕事を始めました。翡翠《ひすい》のよい細工があるということで、糸魚川《いといがわ》から魚津《うおづ》へと来てます。蜃気楼《しんきろう》は残念ながら見えません。そう、魚津は富山県。残りは、あと二つになりました。愛媛と和歌山。もう少しです�
 二、三日、日を置いて、
 ——もう旅から帰っているかな——
 と、電話をかけてみた。
 しかし、ベルが鳴っているだけ……。
 ——どこかに勤めているのかな——。
 葉書にはそんな一行が記してあった。夜の電話には、男の声が答えるかもしれない。中彦としては、とくにやましいことはないけれど、朋子の夫に対してはなにほどかの気詰まりを感じてしまう。
 それに……朋子は、会いたければなにかの方法を講ずるはずだ。さしでがましいことは、あまりしないほうがいい。ぐずぐずと行動を先へ延ばすのは、中彦のむしろ気質に適っている。
 それでも時折思い出して何度かはダイアルをまわした。その都度、朋子が不在だったのは、ただの偶然なのか、設計図がそうなっているからなのか、わからない。

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