真夜中のインベーダ
テレビの画面にエンド・マークが映り、映画が終った。
宇宙の果てから醜悪な星人どもが押し寄せて来て地球の女たちを襲い、奪い去っていく——そんな筋立てのSF映画だった。
「ねえ、宇宙人て本当にいると思う?」
ハナコがベッドの上で小首を傾げながら尋ねる。上気した表情がういういしい。
「そりゃ広い宇宙だからな。いるかもしれんさ」
マサオが片頬で笑って答えた。
「じゃあ、突然地球を襲って来るかもしれない?」
「絶対にありえないとは言えないね。UFOを見た人だっていっぱいいるんだから」
「きっと大戦争になるわね」
「それはどうかな。はるばる地球にまで飛んで来るほどの科学の知識を持っているんだから。地球人は勝てっこないさ」
「それじゃ今の映画みたいに地球の女は襲われちゃうの? トカゲみたいな男たちに」
「さあ、地球の女に興味を持つかどうか、わからんよ。第一トカゲみたいな恰好かどうかだってわかりゃしないし。もしかしたら地球人にはぜんぜん見えない生物かもしれないぞ」
「意外に草刈正雄みたいなハンサムだったりして……」
「そうかもしれん。アハハハ。いずれにせよ宇宙人に滅ぼされないうちにせいぜい仲よくしておかなくちゃあ」
マサオは満足そうに笑いながら話を打ち切り、ハナコのほうへスイと腕を伸ばした。
新婚二ヵ月目。真実蜜のように甘い日々が続いている。
指先と指先がからまると、たちまち唇が重なり体が寄りそう。
「大好き、マサオ」
「オレも大好きだ。ハナコ」
男の掌が女の夜着の下に届くとハナコの唇から、細い息が漏れた。
愛のしぐさを続けながら、マサオが急に真面目な表情を作って、
「オレ、本当は宇宙人なんだぞ」
と、呟く。
新妻は細く目をあけ、そんな悪戯を微笑で受けとめてから、
「いや、そんなの」
と、さらに甘えるように男の体に身をからめた。
マサオの脳裏に、たった今見た映画の断片が残っている。星人たちは鱗《うろこ》のはえた指で地球の女たちをむさぼっていた。もしもハナコがあんな男たちに犯されたなら……。それをまのあたりに見せつけられたら……そんな連想が彼の心を高ぶらせる。
「あ、待って」
ハナコが身を起こした。
「どうした?」
「ごめんなさい。アレの買い置きがないの」
「アレ? ああ、そうか」
夫はすぐに理解した。夫婦の大切な夜の小道具が切れているのだろう。
「じゃあ薬局へ行って買って来よう」
「今ごろあいていないわ」
「いや、自動販売器が店の前にある」
マサオはパジャマの上着のままズボンだけはき替えあたふたと部屋を出て行った。
自動販売器は、町角の街灯が作る黒い影の中にひっそりと立っていた。なぜかそのあたりにだけ異様な空気が立ちこめているように見えた。
「おかしいな」
マサオはブルッと身震いをする。風邪でも引いたのだろうか。
コインを入れると空の星がいっせいに輝きを増した。天の一角をサッと青白い光が走り抜けたのではなかったか。
「どうもSF映画の見過ぎらしい」
マサオは首を振り振り家へ戻った。ベッドではハナコが肌をあらわにして目を閉じていた。
もう一度激しい愛撫が始まり、体が折り重なる。
だがいったい今夜はどうしたことだろう。なぜかいつもの夜に比べて喜びの度合いが稀薄なように感じられて仕方ない。マサオにとっても、ハナコにとっても……。
その頃、二人の�男�たちが街角で話していた。
「もう戦争はこりごりだ」
「うん。しかし戦争なんかしなくたって大丈夫だ」
「まったくだ。うまくいった」
いったい彼等の脳味噌はどこにあるのだろう? 宇宙を翔けるほどの知能の秘密はどこに潜んでいるのだろうか?
星人たちは街角に小さな基地を作った。その中でじっと待ってさえいれば地球の女たちを征服できるのだった。
「ここで子孫を増やそう」
「地球の女はわるくない」
「うん。まったく全身がとろけそうだ」
彼等の体は薄い皮膜だった。そして十センチばかりの、中空の筒状になっていた。