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今日からマ王3-2
日期:2018-04-29 21:42  点击:324
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「何故《なぜ》そいつがここにいる」
 南側の国境で待機していたフォンヴォルテール|卿《きょう》グウェンダルは、異父弟二人と一緒《いっしょ》のおれを見て、あからさまに嫌《いや》な顔をした。黒に近い灰色の長い髪《かみ》と、どんな美女にも治せない不機嫌そうな青い目。誰《だれ》よりも|魔王《まおう》に相応《ふさわ》しい|容貌《ようぼう》で、声も腰《こし》にくる重低音だ。
 彼の弟じゃなくてホントによかった。兄貴がこれだったら家出している。その点においてはヴォルフラムは立派だ。きちんと兄として慕《した》っている。
「スヴェレラの囚《とら》われ人は偽物だと、直接、説明されるつもりらしい」
 鞍《くら》に片足をひっかけてしまい、馬の腹でじたばたしているおれに手を貸しながら、コンラッドは明るくそう言った。
「説明だと?」
「そそそそうだぞ! どーせあんたのことだから、あっちのそっくりさんが本物でそのまま処刑《しょけい》されちゃえばいいのになーんて考えてたのかもしれないけどッ! 残念でした、おれはちゃーんとここにいるし、そっくりさんも処刑させないかんなッ! さあ湖《こ》南《なん》省だかカブレラだかいう国まで行ってもらおっか。そっくりさんと魔笛をゲットしにねっ」
「……コンラート」
「なにか?」
 右の|眉《まゆ》だけを微《かす》かに上げて、武人としては評価しているほうの弟に顔を向けた。
「こいつらを連れて帰れ」
「こいつらって、ぼくもですか!?」
 可愛《かわい》くておバカでわがままプーなほうの弟は、一緒くたにされて憤慨《ふんがい》した。まあおれみたいな「へなちょこ」とは格が違《ちが》うと言いたいのだろう。いつでもどこでもおれの味方のコンラッドは、申し訳ないけどと前置きする。
「俺《おれ》は陛下の命令で動くので」
 そういうことをさらりと言われてしまうと、自分が偉《えら》いと錯覚しそうだ。なりたてほやほやの新前《しんまい》魔王で、中身はそこらへんの野球|小僧《こぞう》、しかも万年ベンチウォーマーのおれが、偉大《いだい》な男であるわけがない。
「……勝手にしろ」
 グウェンダルは国境の川へと馬を向かわせた。隊の者はおれたちに気を遣《つか》って、ちょっと離《はな》れて従った。超《ちょう》美少年と相乗りという栄誉《えいよ》にあずかりつつ、真夏の太陽を見上げた。全員、アラビアのロレンスみたいな格好で、白っぽい布で日射《ひざ》しから身を守っている。距離《きょり》は短いが|砂丘《さきゅう》も通過するので、暑さ対策も重要だ。
「熱射病で倒《たお》れられたらどうしますか!」
 と、例によって過保護な教育係は、泣きながらおれを引き止めた。右手をぎゅっと握《にざ》り、超絶美形が|号泣《ごうきゅう》寸前だ。
「暑いばかりではございません。コナンシア、スヴェレラは、数年前まで内戦状態だったのです。現在でも|貧富《ひんぷ》の格差から民《たみ》の心は荒《すさ》み、治安も悪いと耳にしております。しかもここ二年は記録的な干害で、食糧《しょくりょう》を巡《めぐ》る争いまで起きているようなのです。どうかご同行されるのはおやめください。魔笛の件はグウェンダルがよきに計らいますから……陛下はこの私、ギュンターと、湖へ避暑《ひしょ》にでも参りましょう」
 整った鼻梁《びりょう》……の下の穴からぶら下がる、鼻水の行方《ゆくえ》が気になって仕方なかったのだが、彼を説得しないことには始まらない。お隣《となり》さんがどんな人か知ることがご近所付き合いのスタート地点だとか、外交の基本は相互《そうご》理解で身をもって体験することが一番の近道だとか、とにかく殊勝《しゅしょう》な言葉を並べ立てて、ギュンターを感動の嵐に巻き込んだ。
「ご立派です陛下」
 と、言わせればこっちのもんだ。フォンクライスト卿の転がし方が判《わか》ってきたぞ。
 例によって髪を染めコンタクトを入れて黒髪黒目を隠《かく》してまで、強引《ごういん》にやってきた国境だったが、記録的な干害というだけあって、|眞魔《しんま》国とコナンシアを分ける川はほとんど干《ひ》上がっていた。ひび割れた地面が露出《ろしゅつ》している。優に一キロはありそうだ。黄河《こうが》やナイル川級の広大さで、地元の利根《とね》川ではちょっと太刀《たち》打ちできそうにない。
「水があったらすごい光景なんだろうなあ」
「ああ。内戦中は人間達の死体がどんどん流れ着いたらしい。奴等《やつら》は我々の土地には入りたがらないから、引き取りに来なくて困ったそうだ。流れが強いのも考えものだな」
「……そーいう意味のスゴイじゃなくてさ」
 川を渡《わた》りきると丸太で造った簡単な柵《さく》があり、こちらの数倍の兵士がいた。国境が物々しいのは当然とはいえ、魔族がスヴェレラに侵攻《しんこう》した歴史はないのだから、もう少し友好的でもよさそうなものだ。|槍《やり》の穂先《ほさき》は確実におれたちに向かっている。何故か後列の兵士達は、手の甲《こう》を軽く当てて顎《あご》を突《つ》き出している。
「いまどきアイーン、って……」
 ヴォルフラムが舌打ちした。
「あれは魔族を謗《そし》る行為《こうい》だ。本心では恐《おそ》ろしくてたまらないくせに、集団になると思い上がる。まったく人間は質《たち》が悪い」
「はあ、すんません」
「お前は人間じゃないだろう、いい加減に魔族としての自覚を持て!」
 これまたすんません。トリプルすんません。
 
 
 眞魔国の南に位置するカーベルニコフ地方は、白い|砂浜《すなはま》と乾燥《かんそう》した風が売り物のリゾート地だ。短い夏に太陽を求めて|訪《おとず》れる北部の魔族も少なくない。川向こうの隣国《りんごく》コナンシアでは、日照りで農作物への被害《ひがい》が深刻なようだが、主要産業が観光であるこの地方では、晴れれば晴れるだけ客が増える。
 ここ、魔王のためのご用邸《ようてい》でも、まるで暑さにやられたみたいに、くたりとしている男がいた。フォンクライスト卿ギュンターだ。
「……行ってしまわれた……」
 背に流れる灰色の髪は艶《つや》をなくし、スミレ色の瞳《ひとみ》は|空虚《くうきょ》に濁《にご》っている。頬《ほお》に残った後《おく》れ毛が所帯やつれにも似た悲壮《ひそう》感を漂《ただよ》わせていた。
 机に広げられた服に顎を埋《うず》め、開け放たれた窓の向こうの空と海を呆然《ぼうぜん》と眺《なが》めている。
「何故、陛下は私だけを残して行ってしまわれるのでしょう……もしやこのギュンターのことを、お嫌《きら》いなのでは……」
「そうかもしれないわ」
 誰にともなく呟《つぶや》いていた言葉に返事があり、ぎょっとして顔を上げた。
 小柄《こがら》ながらもはち切れんばかりのナイスなボディが、水着か!? と見まがうマイクロミニのサマードレスに包まれている。腰まである金色の巻毛を高い位置で結《ゆ》い上げて、艶《いろ》っぽいうなじと|襟足《えりあし》を惜《お》しげもなく夏の空気にさらしていた。邪気《じゃき》なく|微笑《ほほえ》む唇《くちびる》と白い肌《はだ》、エメラルドグリーンの瞳と長い|睫毛《まつげ》、とんでもなくセクシー系だということを除けば、末の息子にそっくりだった。どう見ても三十路《みそじ》前のお姿だが、実のところきんさんぎんさんよりもご長寿《ちょうじゅ》だ。
 魔族似てねえ三兄弟のお袋《ふくろ》さんにして、前魔王現上王陛下フォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエ様だ。セクシーとかヴィジュアルとかの方面ではなく、正真正銘《しょうしんしょうめい》本物の女王様だったのだが。
「じょ、上王陛下っ、なんという|扇情《せんじょう》的な格好を」
「あらだってぇ、陛下がいらしてると聞いて来たんだもの。ギュンター一人だと知っていたら気合い入れて腿《もも》を見せたりしなかったわ」
「そそ、そうやってことあるごとに陛下を誘惑《ゆうわく》されるのはおやめくださいツェリ様っ」
「やぁね、ギュンターったら。あなただって陛下の服の|匂《にお》いなんか嗅《か》いじゃってるじゃない」
「こっ、これはそのっ」
 彼の腕《うで》から|奇妙《きみょう》な記号の描《か》かれたTシャツを取り上げる。地球で広く使われている文字だ。
「どんな匂い? 独《ひと》り占《じ》めは許せなくてよ。あたくしにも試《ため》させて……あら……」
 湿気《しけ》った木綿《もめん》を鼻に押し当てたツェリ様は、なんともいえない複雑な表情になった。
「……これって陛下の体臭《たいしゅう》なのかしら。あんな可愛らしいお方なのに、ちょっと意外な感じがしない?」
「いいえそんな、|滅相《めっそう》もない! 若い男性らしくてとても、そのー、|磯臭《いそくさ》いというか」
 おそらくそれはユーリではなく、イルカのバンドウくんの体臭なのでは。
 
 
 あいのりは、別の意味でもあついのだ。
 五七五にしてみても、やっぱり暑苦しさに変化はない。真夏の|輝《かがや》く太陽の下、十六歳と八十ニ歳の若い……多分若いだろう二人が|狭《せま》い馬上で密着しているのだから、ヒートアップするのも当然だ。しかもここは空調の効いた室内ではなく、ゴールの見えない|砂漠《さばく》の真ん中だ。なるべく同乗者の背中から身体《からだ》を離して、間に風を入れようとする。熱砂をはらんだ空気の流れは、風と呼べるような優《やき》しいものではなかったが。
「くっついてないと落ちるぞ」
「だってあちィんだもんよー」
 ヴォルフラムはこの|状況《じょうきょう》を楽しんでいるようだ。おれだって相手が女の子なら、大喜びで馬上のパートナーになる。後ろから腕を回して手綱《たづな》を握り、気をつけてなんて紳士《しんし》的な言葉をかけてみたい。だが悲しいかなフロントシートには、少女よりも可愛い美少年。
 総勢二十人のおれたちは、月の砂漠ならぬ昼の砂漠を渡っていた。ラクダではなくて、人間達の馬で。国境で集団アイーンをしてくれた警備兵達は、|家畜《かちく》の入国には検疫《けんえき》が必要で、それには最低でも二十日はかかると言ってきた。現代日本で育ったおれにとっては、なるほど一理あると思えたのだが、ヴォルフラムや他の部下の話では、言い掛《が》かりも甚《はなは》だしいということだ。で、それまで乗ってきた魔族の軍馬(ミニ知識によると、心臓は二つ)を引き返させ、コナンシアの国境の街で現地の馬を買った。レンタカーがあれば便利なのだが、どうせ|免許《めんきょ》を持っていない。
 この果てのない黄土色の土地は、砂漠というほどの規模ではないそうだ。ボストン生まれで埼玉育ち、鳥取に住んだことのない者の知識では、砂漠と|砂丘《さきゅう》の違《ちが》いは判らない。人工芝《じんこうしば》と天然芝なら区別できるんだけどね。まあそれも、こんなに暑くなければだ。
 ずっと前を行くグウェンダルの背中が、陽炎《かげろう》で揺《ゆ》らいでワカメみたいだ。背後にいるはずのコンラッドに、弱音を吐《は》こうと振《ふ》り返る。
「どうしてあんたたち暑くねーのォ?」
「訓練かな」
 余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》で|涼《すず》しい顔だ。|汗《あせ》もろくにかいていない。考えてみればおれ以外は全員、トレー二ングを積んだ兵士のはずだ。職業|欄《らん》に軍人と書くからには、日頃《ひごろ》の厳しい訓練を鬼軍曹《おにぐんそう》にぶっ叩《たた》かれながらこなしているのだろう。日本でいえば自衛隊のように、野山をさまよったり|沼《ぬま》に潜《もぐ》ったり、雪祭りで雪像を作ったりしているに違いない。成長の早い木の苗《なえ》を毎日飛び越《こ》す練習もしているだろう。それは忍者《にんじゃ》か。とにかく、暑さでやられかけているのは、おればかり。
 ついには幻覚《げんかく》まで見る始末だ。
「あれーなんかかーわいいものがー、砂の中央でバンザイしてるぞー?」
「何がだ? ぼくには見えないぞ」
 十メートルほど離《はな》れた砂の|窪《くぼ》みから、見覚えのある動物が顔をのぞかせている。こんな場所にはいるはずのない、|絶滅《ぜつめつ》危惧《きぐ》種《しゅ》の珍獣だ。
 すぐ前を歩いていた兵が、栗毛《くりげ》の馬ごと姿を消した。続いておれとヴォルフラムの葦毛《あしげ》も、がくりとバランスを崩《くず》して沈《しず》む。
「うわ、何ッ?」
「砂熊《すなくま》だ!」
 砂熊!?
 突然《とつぜん》、目の前の人々が一気に消えた。おれたち自身も砂の中に吸い込まれていて、視界が黄土一色になってしまった。蹄《ひづめ》の一部や二の腕など、局部的にちらりと目に入る。緩《ゆる》やかな、だが決して逃《のが》れようのない巨大な蟻地獄《ありじごく》に巻き込まれて、お椀《わん》状の中央に流されてゆく。
「どっ、どうなってんの!? どうなっちゃうの!?」
 |喋《しゃべ》ろうとすると口の中にまで砂が入り込んでくる。ヴォルフラムの服の端《はし》を掴《つか》もうとするが、腕も脚《あし》も指も顔も熱い砂の中だ。息をするのもままならない。砂熊だって!? それってどういう生き物よ!? 鳴き声もしっかり教えてくれ。霞《かす》みかけた黒い目には、渦の中央でバンザイを繰《く》り返すツートンカラーの大熊猫が映っている。べージュと茶色で保護色だが、明らかにあれは、砂熊なんかじゃなく……。
「パンダだろ!?」
 こんな砂漠に夏の新色のパンダちゃんが。クマザサはどこにあるのだろう。
 砂時計の中身気分|満喫《まんきつ》中のおれの腕を、強い力で誰《だれ》かが掴んだ。
「コンラッ……」
 絶対的守護者は下にいて、膝《ひざ》の後ろを肩《かた》で支えてくれている。顔を上げると、ぎりぎり穴の縁《ふち》で踏《ふ》みとどまって、おれをぶら下げているのはグウェンダルだった。他の兵やヴォルフラムは黄色い砂に巻き込まれて、馬の脚や誰かの指先など局部的にしか確認《かくにん》できない。|全《すべ》てが渦の中心へと、スパイラル状態で落ちてゆく。
 なんだこれは!? こんなのが待ち構えてる危険な場所へ、おれはのこのこ来ちゃったのか!? 
「なにこれ、こんなこと……そうだ、ヴォルフラムが! おれより先に落ちたんだよ、なあみんな死んじゃう? ヴォルフ死んじゃうのか!?」
「運が悪ければな」
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「大丈夫《だいじょうぶ》、あいつを何とかして抜《ぬ》け道《みち》を見つけるまで息が保《も》ちさえすれば何とかなります。さ、陛下は早く登って!」
「でも助けに行かないとッ! あんな大きな熊相手にヴォルフラム勝てるか判《わか》んないしっ」
 だってジャイアントバンダだぞ。斜面《しゃめん》を駆《か》け下りようとするが、グウェンダルは離してくれそうにない。
「お前が行って何になる」
「そうだけど、そうだけどさっ、ほっとけねーじゃん! 兄弟だろ、助けに行けよッ、おれなんかより弟の腕を掴んでやれよっ! なあコンラッド、あんたならアイツ、あの熊やっつけられる? |剣豪《けんごう》なんだから中ボスくらい|倒《たお》せんだろ!?」
 ずるずると引き上げられながら|訴《うった》える。砂に足を取られないよう慎重《しんちょう》な動きだが、コンラッドはおれの眼《め》を見ようとしない。
「おっしゃるとおりかもしれませんが、今は陛下を安全な場所にお連れするのが先です」
「そんな口のきき方すんなよっ! おれのことはいいから……」
「よくないです!」
 薄茶《うすちゃ》に銀を散らした瞳《ひとみ》が、一瞬《いっしゅん》だけかちりとおれに|焦点《しょうてん》を合わせた。すぐに渦の中心に向き直り、ウェラー|卿《きょう》は唇《くちびる》を噛《か》む。傷のある|眉《まゆ》を|僅《わず》かに寄せて、|滅多《めった》にないような苦しい声で言った。
「陛下が第一だ。それは全員、同じこと。ヴォルフラムだって一人前の武人なんだから、それくらいの覚悟《かくご》はできているはずです」
「けどおれはっ……」
 蟻地獄に引きずり込まれた仲間達は、もう存在した|痕跡《こんせき》もない。本当にあんな穴に落ちてしまって、運が悪ければ、くらいの確率で済むのだろうか。母親|譲《ゆず》りの|金髪《きんぱつ》やエメラルドグリーンの|綺麗《きれい》な瞳が、あの中でどんな恐怖《きょうふ》に襲《おそ》われているかと思うと、胸が痛んで呼吸ができなくなる。おれなんかを守ってここにいるより、大勢の兵を救ってくれ。二十人もの生命とおれでは、天秤《てんびん》は向こうに傾《かたむ》くに決まってる。いくら王様だからって、そのために誰かを犠牲《ぎせい》にしていいはずがない。
「けどおれはあんたに……弟を見殺しにするような人でいてほしくないんだよ……」
「……さあ、早く離れないと。ここもいつ崩れるか判らないから」
「言ったよな」
 次の言葉の準備のために、自分から確かな地面へと移動した。足の裏の感触《かんしょく》が、しっかりと踏みしめられる固さに変わる。
「言ったよな、コンラッド。おれの命令で動くって」
「それは」
「言っただろ、おれのサインで動くんだって。だったら命令するから、ヴォルフを助けに行ってくれよ! おれはこのとおり大丈夫だし、強いのが一緒《いっしょ》だから心配ないって」
 |虚《きょ》を突《つ》かれた顔をして、コンラッドはおれたち二人を交互《こうご》に見比べた。命令ですかと呟《つぶや》くように確認してから、落ち着き払《はら》った長兄にはっきりと言った。
「陛下を」
「ああ」
 背後にいるグウェンダルの表情は見えないが、ごく短いやりとりの中にほっとした|響《ひび》きが聞けた気がして、この選択《せんたく》は決して間違《まちが》ってはいないのだと、妙《みょう》な自信が胸に湧《わ》く。
 次男は末弟と部下達を救いに、脆《もろ》い斜面を|滑《すべ》り降《お》りて行った。
「奴《やつ》の抜け道の見つけ方は判るか!?」
「あいつに出くわすのは三度目だ! ではスヴェレラの首都で!」
 この選択は決して間違ってはいない……はずだった。

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