その三
町角で偶然あなたに逢った
その日 別れて帰る道すがら
わたしはわたしの手のひらを見た
てのひらだけが年を取ったように
しわが刻みこまれて 固い
あなたの肉の厚いてのひら
いつも手のひらには窪みがあった
たわむれに 町の易者に見て貰ったら
お嬢さん 素適な掌ですね
この窪みはじっとしていても
お金が溜ります……と
嬉しいような困った顔をして
見料を払うのもそこそこに立ち去った
遠い日のこと
何年経っても わたしはあの日の
あなたとてのひらを忘れない
お金溜ったの?
一度聞いて見たい言葉だのに
何故か いまのあなたには聞けない
なりふりかまわないで幸せになりたいと
一生懸命生きて来ました
お互いに白いものが頭にちらついて
ああもう若くはないのね
お金よりも どんな幸せよりも
時間が欲しい わたし達
てのひらの窪みに いまは
秋がしのび込んで
あの町角にはもう易者は居なかった