その四
縫針へ糸がとおらない
二度、三度あせればあせるほど
針の穴はそっぽ向いたように
糸はから回りする
目がちかちかしてもうこれまでという
ぎりぎりのとき、さっと糸がとおった
かんしゃく玉が破裂でもしたら
たまったものではないと
針も糸もさっと身をかわしたのだろう
私は苦笑しながら それでもほっとして
ありがとうと呟いた
糸をとおすこと位 言って下されば
とうしてあげますのに……
親切な言葉が返ってくるけど……
かんにん袋を繕う糸だもの
頼めアしないと もう一人の私が呟く
おばあちゃん いつになると死ぬるん?
いきなり孫の問いに私はぎくっとした
その昔 私は母に お母さんを
いつからおばあちゃんと呼ぶの
その時のびっくりした母の顔が浮かんだ
そうね いつ死のうか
いつ死んだらええじゃろうかな
おばあちゃん 死んだらいけん いけん
柿が少しずつ色づきて 稲穂は重そうに
首をかしげている
いよいよ秋本番
また死ねないと呟きながら わたしは
命綱をたぐりよせる
わたしにはまだしなければならないことがある
わたしはそわそわと立ちよった
みじかい秋の陽ざしの中に