とりあえず一瞬の懐想のあと
爽快に「ええ、元気です。」と
受話器に言葉を交わす
気がつけば時間と近況が
無制限に「あら、そうなの。」と
ファッションみたいに一変してゆく
かきたてるような目先の刺激
夢想し多感だった頃の共通点に
終りを告げる
どうにも面倒な気分にひきずられ
薄情ぽく「じゃあ、またね。」と
よそよそしく乗り移れない
こんなにも私は、情の熱い
性質だったかしらと考えます
健気に思ってもみます
そのまま戯いなく探りあう見栄や
動かぬ心に「まあ、本当。」と
やはり、片耳をかしてしまう
退化した翼を拡がるだけ
拡げ『しかたがないわ。』と
胸の中に聴く
数学的に弾力を失った
とぎれがちな会話から
溜息が誇大に響いて来る
とりあえず、もうこれで
気分に揺れ動く呼吸を安らげ
理想的から不適応に進行した
恋人よ
「さようなら」