玉シダに映る 午後のたゆたい
光が硝子戸に 虹の輪を作り
母は 朝露に咲いた 朝顔の花を数え
娘は その汁で 色とりどりの和紙に
鮮かな 水中画を描く
机上の編み物は 白い無限のレース模様を
日々の重さで 私に語りかけ
不在の時の長さを 部屋の中に繰り拡げる
父は 天上の黄ばんだ煙草の煙の跡に
娘達の幸せを 今に問いかけ
夫は 私の弾く晩年のリストを聞いている
妹は 旅の疲れを知らぬ 妖精のごとく
白と黒のドレスの 衣ずれの音に
鏡の中の世界に 耽溺し
夢幻の横顔を映し出す
三四郎の弟は 一日中洋書を手にし
紙潔の美しさを 映像に見つめて
精悍な腕で 地図を拡げる―
娘は マザーグースの歌を歌いつつ
猫に舞い 優しい頬ずりを止めようとも
せず 血の愛をすりかえようとする
母は孤り 無言で廊下の端に立ち止まり
蔵書の中の金文字の かすかな色の
移ろいの行方に 過去を眺め
愛する者達の彼等の動きの奥で
言葉を失った 古いいぶし出された
振り子のように 一対の 物静かな
語り部に似た 空蝉になろうとしている