温もりのない指で
彼女は私の瞼を開き
鈍色の液体を点眼した
薄暗い部屋で黙ってわたしは
革張りの椅子に腰かけている
扉の向こうを低い跫音と
乾いた咳が遠ざかり
緩やかに冷たい視界が融けはじめる
細かく罅割れた褐色の壁面に
淡い顔料の残る廃墟
毀れた彫像のある広場に
埃っぽい風が起こり
轍のつづく街道に転がっている
乾いた山羊の糞をたどれば
破れた幌の舞う兵にゆきつく
尖った島影の鋭利な海は
厭世的な古い楽譜を
色褪せた眸に転記している
或いは波という事象に於いて