わたしの総身には
夥しい人の群が息ずいている
縄文の昔から今へと脈々と続く人の群が
ハーモニカの音に胸の奥のひとりが泣く
かがり火に尾骨がざわめく
極楽とんぼな足に祖父が住む
胸の薄さに母が宿る
指先が青くなるほどに
ひとを恋して眠れない夜
体内からのつぶやきが聞こえてきた
あのひとはわたしが愛した男だ と
いったいわたしは誰だろう
深夜 人の群が寝静まる刻
鏡をそっとのぞいてみた
白熱光に照らされた鏡には
ゆらゆらと ゆらゆらと
のっぺらぼうが揺れていた
きっとわたしは幾千もの人達が
生きたと言う証を
次の世に送り届けるために
選ばれたに違いない
ならばひとつの器になりきって
幾千の人達の声に
じっくりと耳を傾けようではないか
共にこの世を謳歌しようではないか
なによりも
やがて人の群に混じる日のために
わたしが生きた証を
背骨に凛と刻みこんでおくことも
忘れないでおこう
ああ今日もまた
夕陽を愛したまなうらの父が
饒舌になる刻がやってきた