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紙細工の花嫁11
日期:2018-09-29 20:14  点击:319
 10 友情の証し
 
 
「悲惨な結末ね」
 と、聡子が言った。
「うん……」
 と、亜由美は、何となく考え込みながら、肯《うなず》いた。
「どうしたの?」
 と、聡子が訊《き》く。「何だが元気ないわね」
「お葬式の帰りに、あんまり元気でもおかしいでしょ」
 と、亜由美は言い返して、「ね、聡子」
「うん?」
「悪いけど、先に帰ってくれる?」
 と、亜由美は言った。
「いいけど……。亜由美はどうするの?」
「ちょっとね、用があるの」
「分った。寒いよ、早く帰らないと」
「うん。——じゃ、また」
 聡子が先に歩いて行く。亜由美はそれを見送ってから……。
 結木の葬儀に出て来たところである。
 会社でも好かれていたせいか、女子社員が大勢やって来ていた。中には泣いている子もいて……。もちろん、松井見帆も来ていた。
 亜由美は、小さな公園に入って、ブランコに腰をおろした。
 黒のワンピースで、ブランコに揺られているというのも、何だか妙な光景だったろうが、そこからだと、道を行く人が見えるのだった。
 まだ昼下りの、早い時間だったが、ずっと曇っているので、まるでもう夜になりかけているみたいだ。
 風は冷たく、黒のワンピースはコートをはおっていても、身震いするようだったが、それでも亜由美は待っていた。——そうしないわけにはいかない……。
 何人か、お葬式の帰りの人が通って行った——。
「——洋子」
 と、亜由美は呼んだ。「ここよ」
 五月洋子は、公園の中に入って来た。「何してるの?」
 黒のスーツで、洋子の方が少し大人びて見える。
「うん……。隣に来ない?」
「そうね」
 隣のブランコに、五月洋子は腰をかけた。「懐しいね、この感じ」
「本当。よく遊んだものね」
 と、亜由美は微笑《ほほえ》んだ。
 少し間があって、
「亜由美……。何か話があるんじゃないの?」
 と、洋子は言った。
「うん」
 亜由美は肯《うなず》いた。「——松井さん、辞めるんでしょ」
「そうらしいわ」
 洋子は、ちょっと靴の先に目を落として、「寂しいけど、あの人の性格からいえば、当然でしょうね」
「そうね」
 と、亜由美は肯いた。「結木君も可哀そうだった」
「いい人だったわ」
「でもね——」
 と、亜由美は言った。「あの人には監視がついてたの」
「え?」
「田崎課長を殺したはずがないのよ。ずっと刑事が見張っていたんだから」
 洋子は、黙って、亜由美を見ていた。
「それに、私の家に松井さんがいる時、結木君が電話をかけて来たの。どうして番号を知ってたのか、不思議だったわ」
 と、亜由美は言った。「うちは番号を電話帳にも出していないし、知っているはずがないのにね」
 亜由美は、ちょっと首を振って、
「洋子——」
「分ってるんでしょ、亜由美」
「分ってないわ、何も」
 五月洋子は、ちょっと目を細くして、遠くを見るようにしながら、
「私、松井さんのことが好きだったの。憧《あこが》れてたわ。高校の時、クラブの先輩で、松井さんとよく似た人がいたの。しっかりしてて、頼りがいのある女の人に比べたら、男なんて面白くも何ともないわ。そう思わない?」
「分るわ」
「田崎課長が、松井さんのことを……。そう知って、体が震えたわ。しかも、面と向って侮辱したし……。許せなかった。絶対に!」
 洋子の言葉には、烈《はげ》しい怒りがこもっていた。
「じゃ、初めから?」
「いいえ。梶原さんのことは、結木君がやったのよ。私も手伝ったけど」
「あの爆弾を?」
「そう。結木君があれを作ったの。でも、あの式場の建物には入れても、披露宴会場にまでは入れないでしょ? だから、私が仕掛けたのよ」
「でも、あれは——」
「聞いたわ」
 と、洋子は肯いた。「失敗して良かった、って、結木君と話したの」
「成田で梶原さんに切りつけたのも?」
「私よ」
 と、洋子は言った。「結木君が動いちゃ危い、と思ったしね。——松井さんと梶原さんの間のことで、事実を知ったのは、その後だったわ」
「結木君とはずっと……」
「どっちも松井さんのことが好き。ピンと来るものよ」
 と、洋子は微笑んだ。「いい友だちだったわ」
「じゃ、二人でやったことなのね」
「ええ。——でも、田崎を殺したのは私一人でやったこと。結木君に話して、自首するつもりだ、って言ったの」
「そう」
「そしたら、結木君、じっと話を聞いていて……。一日待ってくれ、って。まさか——あんなこと、するなんて」
 と、洋子は首を振った。「本当にフェミニストだったわね」
 亜由美は、靴の先で、下の地面を軽くけった。
「——ごめんね、亜由美」
 と、洋子は言った。「でも、私も結木君に総《すべ》てをかぶせて黙ってるつもりじゃなかったのよ」
「だと思ってた」
「ただ、結木君の気持を裏切りたくなかったから、お葬式がすむまでは、と思ってね」
 そう言って、洋子はちょっと笑うと、「それにね、松井さんから借りた真珠のネックレス、まだ返してないの」
「私は何も言わないわ」
 と、亜由美は言った。「洋子が自分で決めて。何もしなくても、私は黙ってる」
「そう?」
 と、洋子は亜由美を見て、「じゃ、亜由美を殺して口をふさいでも?」
「いいわよ。それでも友だちだわ。私は何も言わない」
 と、亜由美は言った……。
 少し間があって、洋子は、楽しげに笑った。
 そして立ち上ると、
「ね、こんな服じゃ変だわ。着替えて、どこかに飲みに出ようよ」
 と、誘った。
「うん。——酔い潰《つぶ》れるまでね」
「どっちが強い?」
「ためしてみる?」
「OK」
 二人は笑いながら、腕を取り合って、公園を出ると、弾むような足取りで歩き出した。
 もう、冷たい風も、気にならなくなっていた……。
 
「ねえ亜由美」
 と、聡子が言った。「お正月にかけてさ、スキーに行かない?」
「うん……」
 亜由美の返事は、素気ない。
「温泉もいいね。どう思う?」
「うん……」
「いっそハワイかニュージーランド?」
「うん……」
「何なら盆踊りにする?」
「うん……」
「こりゃだめだ。——ドン・ファン、何とかしなよ」
 塚川家の居間である。
 聡子が、何とか落ち込んだ亜由美を盛り上げようとしているのだが、さっぱりのって来ない。——確かに、洋子が自首したので、ショックを受けているのは当然のことである。
「あんた、いつもの恩返しに、逆立ちでもしてごらん」
 聡子に言われて、ドン・ファンがプイとそっぽを向いた。どうやら、プライドを傷つけられたと見える。
「亜由美」
 と、母の清美が顔を出して、「何だか大きい箱が届いてるよ。神田さん、ちょっと手伝って下さる?」
「はい」
 ——確かに大きな箱で、リボンがかけてある。
「何だろう?」
 と、テーブルにドンと置かれたその荷物[#「荷物」に傍点]に、亜由美も目を丸くした。
「カードがついてる」
 と、聡子が取って、「——殿永さんだよ。ええと……、〈早く亜由美さんがいつもの元気を取り戻されますように〉だって」
「開けてみよう」
「うん」
 リボンをといて、箱の天辺《てつぺん》の蓋《ふた》を外すと、パタッと箱の四方が開いて……。
「何よ、これ!」
 と、二人が同時に言った。
 堂々たる、ウェディングケーキだった。天辺に、花婿花嫁の人形が立っている。
 呆気《あつけ》に取られて、二人が眺めていると、清美が言った。
「これで、後は相手[#「相手」に傍点]さえいりゃいいわけね」
 亜由美はムッとした様子で、
「ふざけてるわ!」
 と、言った。「私たちを馬鹿にしてる!」
「そうよ」
 と、聡子も肯く。「当てつけだわ」
「明らかにいやみ[#「いやみ」に傍点]よ」
「皮肉[#「皮肉」に傍点]だわ」
「そうだわ、夕ご飯にひき肉[#「ひき肉」に傍点]がいるんだったっけ」
 と、清美が台所へ消える。
「許せない!」
 と、亜由美は力強く言った。「聡子、出かけよう」
「どこへ?」
「殿永さんの所よ。人を馬鹿にしてる! ぜひ、夕ご飯でもおごらせてやるわ」
「よし、行こう!」
 二人は肯き合って、居間を出て行く。
 ——確かに、亜由美は、いつもの元気を取り戻しているようだ。
「クゥーン」
 と、ドン・ファンが呆《あき》れたように(?)鳴いて、ケーキのクリームをペロリとなめたのだった……。

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