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800-04
日期:2018-09-29 20:32  点击:281
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「それで明後日《あさつて》の昼ならいいだろ、広瀬《ひろせ》。特に用事はないんだろう?」
 確かに特に用事はない。
 でも、ぼくは、行かないって答える。
「なんだよ、冷たいなあ、あっちはさ、この前会ったので乗り気になってて、お前が来るのが条件なんだぜ」
 電話の向こうで斎藤《さいとう》はいらだっている。
 ぼくの学校は私立大学の附属校だ。うまく中学に入りさえすれば、普通はそのまま、一応私立では最高と言われている大学に進めることになっている。
 小学校の時には勉強させられた。べつにそんなに厭《いや》だってこともなくて、模擬テストで全国の順位が出たりして、上がってると嬉《うれ》しかった。無理をしたつもりもなくて、なんとなく第一志望のこの学校に来てしまった。第一志望というのは親のだったのか自分のだったのか、今となってはよくわからないけれど。
 それが良い選択だったかって訊《き》かれたら、答えようがないよね。現実に別の学校、たとえば公立の中学を体験してないんだから、比較のしようがない。
 ぼくは気にしてるつもりはない。でも、ひとからよく言われるのは男子校なんだってこと。つまり、女の子がいない。当たり前だ。
「そんな、男ばっかり六学年もいて気持ち悪くないの」
 とか訊かれる。
 だからね、マンガみたいに若い女の教師が登場するはずないから、購買部の五十を越えたおばちゃんがアイドルになってるの。
 これは、嘘。
 学校の中に女の子がいないせいなのかなあ、そのぶん、そういうのに一生懸命になる斎藤みたいなやつが多い。受験勉強しないでいいから、自分は遊び人です、っていうのにかけてる。
 斎藤とはクラスが三年間一緒だったんで、なんとなく仲がいい。
 おっと、でも、本当に怒り出しちゃった。
「お前ねえ、高校に行く前に童貞捨てたいと思わないの? 二、三回つきあえば寝てくれるぜ、結構かわいかっただろ?」
 ぼくには、その「つきあう」っていうのが、なんかめんどう。あまり知らない子と何を話したらいいのかわからない。というか、話す気がしない。興味がもてない。
 さっき斎藤が言ってた、この前会ったときっていうのは、女子校に行ってる女の子ふたりに斎藤とぼく。背が同じくらい低くて同じくらいよく笑って同じような服着てる子たち。
 四人でお茶飲んでボーリングしてご飯食べて。斎藤に言わせると、健全なグループ交際をして、で、あまりおもしろくなかった。
 ああいうのって、女の子がジュースのリング・プルが開けられないでいるのを代わりに開けてあげるのが嬉しくなれないとダメみたい。
 これって、たいしたこと言ってないから、そんなに考えてくれなくていいよ。
 女の子がボールを選ぶのを待ってたり、ソーダについてきたチェリーのくきを蝶結《ちようむす》びにするのを見てたりすると、ぼくは、トラックに行きたくなる。
 ひとつ、この学校に来て良かったとはっきり言えるのは、陸上部が中学・高校と一緒に活動していて、レヴェルがかなり高いということだ。たまには大学生と練習することだってあるし、OBのコーチもいる。
 設備も整っている。陸上競技部専用の三〇〇メートル・トラックがあるのなんか、相当恵まれてる。
 今は春休みの自主練習の期間。家で勝手にやっててもいいし、学校へ行って走ってもいい。こういうふうな自由があるのも、他の運動部と違って知的な感じがするでしょう?
 ぼくは、自分で計画をたてて、朝練習と午後の本練に分けてる。本練習の方は、学校に行くこともあるし、ロードを走ることもある。
 朝は食事前に海岸の砂浜を七キロぐらいジョッグしてる。これが、いちばん楽しい時間。
 リング・プル、なんてね。

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