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親父の面会。
おふくろが行くのに、俺もついてけって。ひとりで行くからいいっておふくろは言ってたんだけど、兄貴がすすめるんで従った。
そのへんは後妻なんで気をつかってるみたいね、兄貴に。
ま、親父が留守の間、兄貴の責任は重い。中心になって家と組の両方を支えてかなきゃなんない。うちみたいな小さいとこでは、そんなに人材がいないんだから。
それに比べて、俺なんておふくろのお守り役。弟っていうのは、だらしないねえ。
差し入れ用品の専門の店があって、母親は適当に下着だとかをみつくろった。慣れてんのね、実は。
それで、ひとりしか面会できないから、俺は外の喫茶店で待ってることになった。暗い店でさ、それなのに、そこらじゅうに鉢植え置きまくってる。
まずいだろうと思ったけど、腹へってたからヤキソバ定食たのんじゃったら、やっぱ本当にまずい。ソースと油がびちゃびちゃで、箸《はし》でソバ持ち上げると皿に流れ落ちる。
ああ、いまごろ伊田は何してるのかしら。