74
妹が帰ってきた。
母親が、まず、出迎えているようだ。いつもの文句を言っている。父親はテレビを見ているのだろう。
ぼくが酔っ払って帰ってきたときには、ふたりとも機嫌がよかった。山口の電話はぼくが自分でとったから、女の子のところに行ってたとは思っていない。陸上部の「男同士のつきあい」だと勘違いして歓迎している。
ぼくは、誤解にまかせておいた。
口実が見つかって出してきた父親のウイスキーに少しだけ付き合ってから、ぼくは眠ってしまった。
下で怒鳴り声が聞こえる。父親が参加したのだろう。
でも、それはすぐに終わった。両親とも怒りを持続することは出来ない。本気でこどもを怒れないのだ。
階段をかけあがる音。
突然、妹がぼくの部屋に飛び込んでくる。上着を椅子にほうり投げ、ベッドにのぼる。
妹のからだが意外に重いのに、ぼくは驚く。
妹は、ぼくにキスする。
「お酒くさーい」
妹は起き上がって、窓を開ける。
寝ているぼくの方を向いて言う。
「お兄ちゃん、しようか。いっしょに、息こらえ」