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800-77
日期:2018-09-29 21:26  点击:232
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 女子の二〇〇メートルの準決勝が終わるのを待ってたのよ。
 ホーム・ストレートの脇で屈伸していたら、俺、ユニフォームの背中をつかまれた。
「あんた、ゼッケンが曲がってる」
 安全ピンでとめたやつを、いったん、はずして直してくれてる。
 声だけで、もちろん、わかった。
 忘れられるはずがない。
 まわりの音が全部消えちゃって、俺、背中だけで生きてた。
「しっかり、走るんだよ」
 そんなこと言われて、俺、
「ああ」
 って返事すんのが、やっとだった。
 伊田は、俺の背中を軽くたたいて、いなくなった。あの夜から、はじめて聞いた声。俺は、背中が熱くなってて動けなかった。
 スターティング・ブロックかかえたやつが、突っ立ったままの俺の横を歩いてく。
 なんか、とっても、悲しかったね。やっぱ。
 あの振られた夜よりも悲しかったかもしれない。
 だって、このレース、俺と広瀬の一騎打ちなんだぜ、だれが見たって。こんなときに、俺のこと励ますようなこと、なんで言うんだよ。
 中沢らしくね、平気で笑って後ろ向いて、腰突き出して、こっちも触ってよ、とか言いたかった。
 
 ホイッスル。
 男子八〇〇メートル、決勝。
 俺は四コースだ。
「位置について」
 スタートラインに足をつけてかまえる。
 きょうは勝ちたい。このレースだけは。
 伊田のためにっていうのか、広瀬に勝って見返してやりたい、みたいなのとは違う。ただ、俺のために勝ちたい。中沢が中沢でいるために。
 ピストルで飛び出した。
 とにかく、まず、第二コーナーの終わりの合流点でトップに立つことだ。
 俺の場合、他のやつの走りなんて、どうでもいい。しょうもないかけひきなんてしない。最初にトップになって、そのまま一位でゴールを駆け抜ける。
 それが中沢の八〇〇メートルだ。
 

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