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中沢は明らかに先行逃げ切り型だ。
ぼくは、ラスト・スパートのスプリントに自信がある。ぼくは、もともと一〇〇メートル・ランナーだったのだ。11秒台の半ばのスピードは、全国の高校生の八〇〇メートル・ランナーでも、おそらく一番速いレヴェルにいる。
だから、ぼくの作戦は、中沢をあまり先行させないことだ。10%の敗北を避けるためには、前半に中沢にいい気持ちで走らせないこと。最後の直線にはいるところで中沢が三メートル以内にいれば、ぼくの優勝だ。
バック・ストレートでトップに立ったぼくは、そのまま中沢をおさえて第四コーナーをぬける。
ホームの直線で中沢が並んでくるけど、まだ抜かせない。肩をくっつけたまま、四〇〇メートル。
そのとき、ぼくは、ぼくのからだに力の生まれてくるのを感じた。ぼくのからだが走りたがっているのを感じた。
不思議なことだ。
中沢に負けずにトップをキープするため、ペースはかなり速かった。酸素負債は、もうかなりのところまでいっているはずだ。それなのに、ぼくは、全然疲れていない。スピードを落とす気がしない。
あらかじめの作戦では、あと一周を告げる鐘がなったところ、第一コーナーで中沢に抜かせて、その後ろをついていくつもりだったのだ。そして、七〇〇メートルまでは、その位置で楽に走る。機を見て、スパート。
完璧《かんぺき》な作戦だ。
だけど、ぼくは抜かれたくなかった。
ぼくは、右|肘《ひじ》を突き出し、寄ってきた中沢を外へ押し出す。