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800-81
日期:2018-09-29 21:28  点击:313
 81
 
 なかなか広瀬が抜けなかった。
 一周してしまう。
 スタンドのアナウンスがガーガー言ってんの。
「大会記録も期待できます。ご声援ください」
 とか。
 そんなこと、どうでもいい、俺には。広瀬に勝って、一位になることだけが大切なんだ。
 鐘。
 あと四〇〇。
 前へ出ようとする俺を、広瀬は肘で突いてくる。
 俺の左腕に痛みがはしる。たいしたもんだ。腹は立たなかったね。コーナリングをしながら、さも、外側の腕が自然に開いたみたいに、当ててくる。審判が間近に見てても、気づかないようなうまいやりかただ。
 第二コーナーの出口、俺は、一気にダッシュし、上体をやや突っ込むように前に出した。と、同時に、左腕を伸ばして振り払うようにして広瀬をけんせいし、すぐ内側に切れ込む。
 俺がトップだ。
 バック・ストレート。広瀬が遅れていくのが背中でわかる。どんどん離れていく。
 俺、朝から、忘れよう、忘れようとしてきてた。
 この新人戦の会場は、夏の強化合宿をしたあのスタジアムなんだ。伊田が走ってハードル跳んでたとことか、伊田と散歩したところとか、みんな見覚えがある。
 当然だよ。あれから、まだ、三か月もたってないんだ。伊田は、あのころ、俺の彼女だったんだぜ。
 俺、目がいくのを抑えられなかった。
 あのバック・ストレートの終わり、第三コーナーにかけてのトラックの外の芝生で、俺たち、横になってた夜があったよな。伊田と、俺と、広瀬とでだ。
 あれは、いい夜だったよな、絶対。これから、どんなことがあったって、それだけは、変わんないよな。
 七〇〇メートルを越えた。
 気持ちいいぜ。やっぱ、走るっていうのは、一番前を走ることだ。
 俺はさ、中沢龍二はさ、これからどんなときだって、全力で、トップで生きてくぜ。
 見ててくれよな。

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