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NR(ノーリターン)10
日期:2018-09-30 08:31  点击:309
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 足もとから見渡す限り、どこまでも町並みが続いていく。ところどころに、俺が今いるところと同じような高いビルがあった。
 俺はこの景色を毎日見ていたんだろうか?
 焦点をあちこちにしぼってみる。そうすると、左のほうのビルの上に取り付けられた鉄塔に、なんとなく見覚えがあるような気がする。
 紅白に塗り分けられた大きなやつは、たしかパラボラアンテナとかいうんだったよな。それが、なんかね、そっと遠くをうかがっているみたいなのが、ちょっと不気味。
 眉子叔母さんは、部屋をチェックして回っているようだった。
 長い期間、病室にいたせいか、俺は窓からのパノラマから目が離せない。それは見ている間にも微妙に変化する。
 雲の流れで光の強さが変わっていくせいなのかな。そうするとね、印象も違ってきて、さっきのパラボラアンテナなんて、一段と大きくなったみたいに見える。
 背中から声をかけられた。
「こんないいアパートメントに住んでるとは思わなかったわ。日本の住宅事情は最悪だって聞いてたから、覚悟してたんだけど。立派な暮らしね」
 俺には、なんと返事していいのか、わからない。
「いまから、私も早速、ホテルを引き払ってくることにする。ゲスト用のベッドルームもあるから」
 眉子叔母さんが出ていってしまうと、見慣れない空間に、俺はひとりでいることになった。
 広々としたリビングルーム。そこには生活の匂いがなかった。ベッドルーム。バスルーム。俺が暮らしていた手がかりになるようなものは?
 移動しても、記憶に訴えかけてくれるようなものが見つからない。不自然なくらい清潔な、だれも住んでいないようなスペースがひろがっていた。
 ソファに座り、頭の後ろに両手を当てて、背にもたれる。
 その姿勢のまま、俺は凍りつく。

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