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「素敵なお部屋ね」
突然、侵入してきて、叔母さんを追い出してしまった女は、あたりを見回している。薄いパープルのドレスの腰に手をあてて。
それで、上から下までね、全身をながめてみても、なんの見覚えもないの。
ホントにこいつが、サリナなのか?
ま、自分でそう言ってんだから、そうなんだろうけど。記憶喪失になった俺の脳が、サリナっていう単語にだけは、反応した気がしたんだけどなあ。
「さて、まずはソファに行きましょうか?」
俺が言われるまま腰かけると、隣にサリナも浅く座る。脚を組むから、ドレスの裾がめくれ上がって太腿《ふともも》の上のほうまで見えちゃう。
「お久し振り」
サリナが、俺の耳に息を吹きかけるようにして言った。斜めになって、からだを俺のほうに、もたれかかるようにする。
なんか、いい匂い。眉子叔母さんは、こんなのしてなかった。これって、大人の女の匂いなのかな。
俺、目つむって吸い込んだ。ドクターの好きな深呼吸ね。これするの、俺、うまくなったんだから。
ソファでの、いい匂いの深呼吸。ナースとドクターにも、見せて上げたいね。
と、その瞬間、俺のアゴに、何かがチクッとした。
目を開けると、サリナの手には、ナイフがあった。その先を、まっすぐ俺の喉《のど》もとに突きつけている。
「さあ、言いなさい。正直に」
サリナの目が、あやしく輝いている。
ヤバイね、こいつ、本気だぜえ。
「アレはどこにあるの? 言っちゃいなさいよ」
俺は首を振ろうとしたんだけど、ナイフが迫ってるんで動かせないの。
サリナはナイフをゆっくりと移動させると、刃の側面で俺のほおをたたく。ピタピタッて。
アレっていうのは、あの店長とかいうやつも言ってたよな。
いったい、なんのことなんだ?
「じゃあ、こっちはどうかしら?」
と言うと、いきなりサリナは、あいているほうの手を俺の股間《こかん》にはわせた。
「なによ、縮んじゃったの? さっきから、私のこと見て、ふくらませてたのわかってたんだから。早く大きくしなさい」
また、ナイフでピタピタ。
そ、そんなこと言われたってねえ。
俺は、目をつむった。
ナイフのことは忘れることにして、サリナの手の動きに集中する。
気持ちいいじゃない、それはそれで、とっても。