15
ロッカールームに案内された。
そこには、グレーの金属の扉のついた大きなロッカーが並んでいて、そのひとつには、「高橋進」って書いてある。もちろん、俺の名前だ。
間違いない。やっぱり、俺はここに所属していた。
もっとも、眉子叔母さんなら、それにしたって誰かの手で名札が今日用意された可能性も否定できない、とか主張するかもしれないけど。
そんなこと、言ってたらねえ。
扉を開ける。中にはいってる荷物は、当然、俺の持ち物なんだろうと思う。しかし、その、どれひとつをとってみても、見覚えがなかった。
まあ、しかたがない。
服を着替えてみると、サイズは合ってた。
廊下に出る。どちらへ行くべきか、わからない。明るい方へ歩いていったら、トラックの入口だった。
正解。
最初から、ラッキー。たぶん、うまくいくね、俺、この陸上競技って世界で。
建物から出ると、太陽が顔にまともに当たって、まぶしい。
俺はコーチをさがした。どうも、心細い。こんなだだっ広いとこで、俺の知ってんのは(たいして知らないけど)、コーチだけなんだから。
そしたら、手を振りながら走ってくるひとがいると思ったら、その、コーチ。ニコニコしてて明るさ満点。やっぱ、いいやつ、って感じにあふれてるね。
でもさ、俺が近づいていったら、変な顔をして立ち止まるのよ。
俺の足もとを見ている。
「もうスパイク履いたの?」
コーチが言った。
「スパイクって……、あの、この裏にとがったもんがついてる靴のことですか?」
俺は、自分の足を指差した。
コーチは、口を開けたまま、俺の顔を見つめている。ロッカーに置いてあったのを履いただけなんだけどな。
「長い間、走ってなかっただろ。今日はスパイクは無理だよ。それに、これまで、ふだんの時だって、練習の初めにいきなり履いたりはしなかっただろう? アップしてね、あったまって筋肉をほぐしてからじゃないと、危険なんだ」
コーチは説明してくれるの、ていねいに。
「だいいち、歩きにくくなかったかい? 廊下でカチャカチャいって?」
そうだったのか。それで、擦れ違うひとが不思議そうな顔をして俺をながめてたのか。
コーチは、ちょっとの間、首をかしげていた。
「そういうことも、君の記憶にはないんだね。だいじょうぶ、思い出すさ。いいよ、気にしないで。ついていくから、トレーニングシューズに履き替えよう」