26
「運命、恐ろしいです。こんなことになってしまいました。そういう星の巡り合わせだったのでしょうか」
だから、俺は、運命なんて信じてないって。
俺たちは、店長と俺は、トランクス一枚で並んで立っていた。
「元はといえば、あなたを信用した私が間違っていたのです」
「おい、そこの新入り、しゃべるんじゃねえ」
ほら、怒られちゃったじゃないの。
「はいっ。了解しました」
「バカ。でかい声出すな。気が散るだろ」
(ハイッ)
店長は、声に出さずに口の形で返事した。
みんながね、ひとりの男のことを待っていた。壁に向かってすわって、精神を集中している。
妙に張りつめた感じ。
それから、ようやく、
「いいですよ。準備完了。いきましょう」
そう言って、男がゆっくりと立ち上がった。やけに日焼けした背中だなと思っていたら、お尻《しり》まで、全身が不自然なくらいにまっ黒。
「よーし。スタート」
合図とともに、
「あーっ、あっあっ、あ」
ベッドの上の女が急に声をあげ、身をくねらせた。
カメラが近づく。
「よーしっ、これが欲しかったんだろ。今、入れてやるからな」
全身日焼け男がベッドにのぼると、両手で女の両足首のところをつかんで、大きく開いた。
「ほら、見ろよ。これだ」
「あーっ、イジワル。早く、ちょうだい。あーっ」
なんなんだろね、こいつらって。もう、完全にふたりだけの世界になりきっちゃってんの。
あきれて見てたら、バシッ。
雑誌を丸めたみたいなもんで、尻をたたかれてしまった。
「ほらっ。おまえ用意しろよ。間に合わないと意味ないぞ」
耳もとでささやかれる。
さっきから俺たちに指示を出しているのは、助監督って呼ばれているやつ。
(ハイッ)
店長の返事のマネをしてから、俺はトランクスに手を突っ込んだ。
「うっ、うっうーん。ああー、いいわ。とっても、いい」
女優を見ながら、俺はペニスを摩擦する。
「あー、あっ。そこよ。そこ。もっと、もっと、奥までちょうだい」
横目で店長の様子をうかがうと、薄目を開けて天井を見ていた。瞑想《めいそう》にふけっているみたい。右肩が振動していたけど。
「よしっ、行け」
小さな声で合図されて、俺だってちゃんとやろうとしたのよ。前もって助監督に教わったとおり。
まず、カメラのアングルに注意すること。映らないように、ベッドの足の側から行く。女優の中からペニスを抜き取った男優と入れかわって、ベッドに近寄る。
それでね、俺がトランクス下げたら、横に店長がいた。
バシュ。
なんかすごい音がした。