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「じゃあ、海辺の展望台で男ふたりにやられるシーン。最初は陳ひとり、あとからケンさん加わる。いきまーす」
元のストーリーを知らないから、何が変更なのかよくわからないけれど、店長は指示されてテキパキと動く。
俺はね、いま仕事ないの。見物。
助監督の合図で、いきなりユウカに襲いかかる店長。嫌がるその両手を押さえつけ、スカートをまくり上げる。下着の中に手を入れ、なんやかやしているうちに、ユウカの抵抗も弱まる。
初めてだって言うけど、店長はなめらかな演技。役になりきっているみたいで、感心してまった。こういうことって、店長は呼吸をするように自然にできるのかしら。生真面目な顔でしてるのが、なんだか、変。
そのうちにケンさんも元気になったみたいで参加。いまは、ユウカの後ろからファック。口には店長のペニスがはいってる。
あーあーあーって、あえぎっぱなしのユウカ。
三人のやってるの見てると、まさに、動物。滑稽《こつけい》な感じだよね。
セックスは、本能に近いんだろう。俺だって、記憶喪失になってても、この前、元恋人とかいうやつと、なんとなくできたもの。悩まずにね。
だとすると、むしろ、当たり前のものなのに、こんなの撮影して、それをわざわざ金払って見たがるやつがいるなんて、不思議な気もする。
そんなこと言ってたって、ユウカが丸出しの尻、こっちに向けたりすると、俺自身、ちょっと興奮してしまう。なんか怪しい話だなあ。
さて、いつのまにか店長とケンさんの位置が交代。展望台のベンチに仰向けにされたユウカの股間《こかん》から、店長のペニスが抜き取られ、胸めがけて大爆発。
の、はずだったんだろうけど。
「え?」
「へ?」
「ひょっ」
「あれ?」
店長の精液は、ユウカの腹にぽとっと落ちただけだった。
「なーにー? これだけー?」
ユウカが薄目を開けた。
「これ、どしたのー、元気なーい」
上半身を起こし、店長のペニスを不審そうに見る。
もう、しぼんじゃってんの。ちいさくなった男のペニスって、なんか間抜け。
ケンさんが、店長の肩をたたいた。
「おまえ、昨日のは二十年分だったのか?」
「いえ、あの、確か、四日分ぐらいだと思いますけど……」
ケンさんは、両手をやさしく、店長の肩に置いた、慰めるように。