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ハルさんと歩いてコンビニに行くことになった。
俺は荷物の運び役。弁当以外にも、いろいろ用意するものがあるんだって。今回はスカトロの予定はしてなかったもんで。
機嫌の悪いユウカをなだめなきゃいけないから、店長はバスに残ったの。女のあつかいがうまいのね。
店長ったら、怖い顔して俺に目で合図送ってたけど、だいじょうぶ。まだ、逃げやしないって。
俺、なんか、面白くなってきてたんだもの、AV。ケンさんの話を聞いたせいは、少しはあるのかな。でも、あまり関係ない。
現場の雰囲気ね。
「しょうがないな、監督、好きだからな。でも、屋外スカトロは、だいぶ楽だよ」
ハルさんが説明してくれた。
それまで、このひと、物静かでね。あんまりしゃべらないで、いつも落ち着いてる感じのひとだった。
「部屋の中だと掃除がたいへん。毎日、汁男優やって精液出させられて、それでスカトロの掃除してると、だいたい頭がおかしくなってくる。一ヵ月ぐらいで変になってきて、半年、持つやつはいないな」
「はあ。そうなんですか」
やっぱ、適当なとこで脱走しよう。
弁当を食べ終わると、俺は監督に呼ばれた。
あ、ちょっとヤバイことかな?
「あのね、先にワン・シーン、おまえが主役のやつ撮っとこ。外国のゲイ向けのやつ。おまえのからだって、向こうできっと受ける」
そんな手が。
それで、店長と俺は波打ち際に並ばされた。
店長は青ざめている。
「私、ダメなんです男は。その気はまったくないのです。女のひと相手だったら、いままでのキャリア生かしてなんとかなると、けなげな努力していたのです。運命でしょうか。ああ」
本当にションボリしているの。
「何するの? 俺たち」
「わかりませんが、やっぱり、するんでしょうねえ。男ふたりでです。日本のAV、アメリカで評判いいと聞いたことありますです。画質きれい、作り丁寧ある。でも、まさか私が出演することになるなんて……」
「はいはい、いいかな。ここでは、ふたりが仲良く裸で走るところね」
助監督が、砂浜をやってきた。歩きにくそう。
「カラミの場面は、スタジオでまたね。高橋の巨根が陳の肛門《こうもん》を犯すところは」
店長は、頭を抱えて、しゃがみこんだ。
「それ、よしましょうよ。私よりケンさんの方が、からだ美しい」
「立場、考えなよ。ケンさんは人気男優。男とはしない。陳と高橋は組からの預かりものなんだから。煮ても焼いてもかまわないの」
俺たちは、しかたなく裸になった。
全裸よ。情けない。
「楽しそうに走るんだぞ。水かけ合って、『こいつう』とかいうの、やろうや」
監督はニコニコしている。
「いいわあ」
ユウカが手をたたいた。いつのまにか服着て、見物してんの。
「それは、はたしていつの時代のギャグでしょうか」
力なく、店長がつぶやいた。
「はい、スタンバイ。いいかな、まず、高橋が右手に向かって走り出す。それを追いかける陳ね」
助監督が説明。
「レディ、ゴー!」
俺は水際を、一歩、踏み出した。
そのとき、鋭いサイレンの音。
振り返ると、パトカーの回転灯が、海岸に沿った道路に見えた。