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数日間、寝たり起きたりを繰り返してた。
朝に目が覚めて食事をすると、すごく眠くてたまらなくなる。再び寝てしまい、夕方に起きて風呂《ふろ》にはいると、また眠った。
真夜中に目覚め、簡単な食事をとって、ベッドに戻った。
寝ている間には、たくさんの夢を見た。
後ろ姿のひとを追う。そこは病院の廊下のようだ。そのひとは、俺が会わねばならない誰かなのだ。
歩いても歩いても近づかない。そればかりか、両側にドアのある白っぽい廊下が、どこまでもまっすぐ続いているのに気づいて、俺は恐怖におそわれる。
かと思うと、店長が生真面目な顔で正座していた。全裸で笑うユウカ。着物で机に向かっているのはマフィアの親分だ。
高原組という名前を、ようやく思い出す。それは、半分目覚めてからの思考だ。そのとたんに、再び眠りに落ちる。
監督が焼肉をほおばっている。スポーツカーからおりてくるケンさん。黒っぽいしみは、アパートの天井だろう。
脈絡のないワン・ショットの連続。
ひとつひとつは、おそらく、実際に俺が、それまでに目にしたものなのだと思う。スライドの映写会が、際限なく続く。
これって、記憶の整理なのかな。記憶喪失者が新たに獲得した記憶の。
ある時、突然、気配で、そこにいるのがサリナだと、俺はすぐにわかった。それなのに、振り返るとだれもいない。
走っている俺が見え、追いかけているのは眉子叔母さんのバイクだと思ったら、陸上のコーチだった。
救急車の回転灯。交通事故の現場らしい。俺は、道路に放り出されているいくつかの人間の体を見つける。それが俺の家族だと、瞬間的に気づく。
彼らの顔の部分は、暗くなっていて判別できない。でも、そのうちのひとつは、確実に俺のものなのだ。
だんだんと、夢の中で、俺は夢を見ている俺を意識しだした。夢を見ながら考えごとをするようになり、睡眠中と起きているときの区別が、溶けるように消えていく。
俺が、そんな不規則な生活をしている間、眉子叔母さんはあちこちに電話したり、コンピューターに向かって調べごとをしているみたいだった。
スペイン語や英語で電話するくぐもった声が、ベッドで横になる俺の耳にいつまでも響いていた。