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俺、公園で待ってたの、叔母さんが出て来るのを。
何もしないでいるのも退屈なんで、ベンチ使って腕立て伏せ。シットアップで腹筋を鍛える。コーチに教わったストレッチングもまぜる。
なんか、さっきのマシンに刺激されちゃったみたい。俺、からだ動かすのは気持ちいい。ベンチに腹ばいになって、首の後ろで手を組んで上体を起こす。
グッグッと、力をこめてそらす、背筋のトレーニング。
こういうののやり方を覚えてるっていうのは、手続き記憶がだいじょうぶってこと? でも、思い出せないこともある。どこにあるんだろうね、ひらめ筋。
背筋に力を入れて上体を持ち上げたら、叔母さんが出てくるのが見えたから、あわてて起きた。
尾行の再開。
俺、実際のところ、めんどくさくなってきてたのよ。
でもね、後ろからついて歩いていて、またもや意外な発見をしてしまった。
眉子叔母さんたら、スタイルがいいの。後ろ姿のヒップが、キュッと高い位置にあって。
いままで、一緒に暮らしてて、そんなこと考えたこともなかったね。水着を見たせいかな。なんか、バランスがよくって、てきぱき早足で歩く姿がきまってる。
そりゃ、まあ、サリナや、よくわからないけど、さっきのジムのお姉さんみたいな成熟した魅力はない。
こどもじゃないの、こども。
結局、FBIだとか警察だとかスパイ、それにマフィアみたいなやつらも、同じかもしれない。追いかけてる相手に、愛着を感じちゃったりするんじゃないかな。
最初のうちは憎んだりしててもね、尾行してて意識を集中するっていうのは、ずっと、その対象のことを考えてることになる。そうすると、自然と恋愛感情に近いものを持つようになってしまう。
うーん、俺、すげーこと思いついたな、もしかしたら天才かなって考えてたら、叔母さんを見失ってしまった。
駅の近くでひとが多くなってる。
あわてて交差点を曲がった。そしたら、驚いたね、派手なピンクののぼりが何本も目に飛び込んできた。
その、のぼりっていうか、旗みたいなものには、大きなロゴ・マーク。
(挿絵省略)
あの、MSUだよな、たぶん。
駅の改札口の近くのロータリーには、トラックがとめられてて人だかりがしてる。
こんなに大勢いたら、たいへん。眉子叔母さんはどこにいるんだ?
いきなり音楽が流れ出した。トラックの荷台の部分は開いてステージになっていて、おそろいのピンクの服の女たちが踊る。
全員が同じ振り付けで、跳ねながら叫ぶ。
よく聴いてみると、
「We Are The MSU」
とか、歌ってるみたい。
すげー、ぶさいくなダンス。
なんだ、これ?
俺、あきれてながめてた。
そしたら、眉子叔母さんが視界を横切った。トラックの脇のあたり、ピンクののぼりを持ってる女のところに、近づいてく。
俺、急いで、そっちのほうへ行こうとしたのよ。
その瞬間、目の前が真っ暗。
倒れそうになったのを、後ろから抱きとめられた。
いってえなあ。
殴られちゃったのね。