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両手を動かすと、なんとかほどけそうだった。
草と土のにおいがしてる。
なんか、ホッとしたね。
だって、俺、さんざん音楽を聞かされて、いろんなこと言われた。あのKSIとか名乗ってたやつに。もう、気い狂うくらいね。
そのあと、目隠しのままクルマで運ばれた。で、どっかに放り出されちゃった。雰囲気からすると、原っぱみたいなところなのかな。
しばらくもがいてたら、手を縛っていたロープがほどけた。
目隠しをはずすと、驚いたな、原っぱどころか、えらい山の中なんじゃない? 草が茂ってる空地みたいなところに、俺、ひとり。
見上げると、あたりは、木と空だけ。
どうしようかと思ったけど、アスファルトの舗装道路が木と木の間に見えたんで、そこに出てみた。
さて。
俺、まず、からだをほぐした。なんてったって、長い間縛られてたから、固まっちゃってるの。口のまわりは、ひりひり。
方向は、ふたつにひとつの確率。もちろん、ちょっとでも下ってるほうを選んだ。
もう、夕方になってた。山道をとぼとぼ歩いてるのって、結構、心細い。クルマも通らない。
で、十分も歩いたら、家がたくさん見えた。分譲地のようなところ。それで、客をおろしてるタクシーがいたんで、近くの駅まで行ってもらった。
そしたら、びっくり。なんか見覚えがあるなあって思ったら、病院のある駅なの。だから、そこからは簡単。
アパートメントのドアを開けると、
「お帰りなさい」
叔母さんが出迎えてくれた。
「遅かったわね。今日は何をしてきたのかしら。新しい発見はあった?」
笑って、そう言った。
眉子叔母さんは、尾行のときの上着にミニスカートとは、違った服を着ていた。スウェット素材のね、ふつうの家にいるときのスタイルだ。
「ちょっと待って。すぐに、ご飯の用意ができるから」
振り向いてリビングに歩いていく後ろ姿を見て、心臓がバクバクした。
変だぜ。
どうってことはないはずだ。前を行くのは、いつもの眉子叔母さんだ。
いったい、どうなってるんだ?
初めは、俺のからだに何が起こっているのか、理解できなかった。
信じられない。
俺ったら、勃起《ぼつき》してる。