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「黙りがちなのね。疲れてるのかしら」
眉子叔母さんの声は、遠くから響いている気がする。
俺の脚が動いて、俺のからだをキッチンに運んでいく。俺の手が動いて、前に伸びる。俺の両手が、セロリを手に持っている眉子叔母さんの両肩をつかんだ。
「なんなの? ふざけてるの?」
叔母さんは、前を向いたままだ。
俺の頭の中でささやく声がする。
�眉子を犯せ�
俺のからだが、自動的に動く。
叔母さんの背に、からだを押しつける。立ちっぱなしのペニスが、布地越しに眉子叔母さんの存在を感じる。
頭がズキッとした。
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
だんだん、大きくなる声。
叔母さんはセロリを落とした。
「どうしたの? そんな、真面目な顔して……」
上体をひねって振り向いた眉子叔母さんの目は、驚きで見開かれている。
しゃべりかけた叔母さんの唇を、俺の唇がふさいでいた。
俺の両腕が、眉子叔母さんのからだを回転させる。唇はそのままに、真正面に向きあう。
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
�眉子を犯せ�
どんどん、声が大きくなっていく。
何、言ってんだよ。
俺は、頭の中の声に抵抗しようとする。眉子叔母さんを抱きしめようとする自分の力に、両腕にはいる力にあらがう。
俺は、かろうじてこらえることに成功する。
俺の唇に、叔母さんの唇に力がはいるのが伝わってくる。押しもどすような動き。
叔母さんの両手が、俺の胸をつきかえした。
ふたりの間にスペースが広がる。
「ここまでにしてよ」
叔母さんの声は、いつもよりは低く聞こえた。
「私も、あなたに好意を持っていないわけではないわ。一般論として。でも、あなたの際限のない欲望の対象になるつもりはない」
眉子叔母さんは下を向いているから、俺には頭しか見えない。初めて気づいたね、ふたりの身長は、こんなに差があったんだ。
「そうね、その一般論では、あなたと私は、いまのところ、甥《おい》と叔母の関係なのだし」
下を向いたまま、言う。
それをかき消すように、俺の頭の中の声が、ひと際、大きく響く。
�眉子のマンコ�
�眉子のマンコ�
�眉子のマンコ�
俺の頭の中で、誰かが叫んでいる。
そんな、きたねえこと、言うんじゃねえよ。
眉子叔母さんの肩に置かれたままの俺の両腕が、震える。勝手に動きだそうとするんだ。叔母さんをひきつけようとする。誰か、他のやつの力が、俺を動かす。
全力でね、俺は、頭の中の声と、からだにはいる力に抵抗し、すべてを振り払おうとする。
俺は、頭を抱え、うずくまってしまう。
叔母さんの足もと、俺は、頭を強く振る。
なんとかして、この声から脱却しなくてはならない。俺の目に、涙がにじんでくるのがわかる。
�眉子を犯せ�
�眉子のマンコ�
叔母さんの手が、軽く俺の頭の上に置かれた。
�眉子を犯せ。いいか、オンナに頭はない。突っ込め。突っ込め。眉子のマンコ�
頭の中の声は、だんだん小さくなっていく。眉子叔母さんの手が、外からの声を静めてくれる。
でもね、耳に残るその言葉に、俺の脳の奥のほうが反応した。
同時に、縛られていたときに嗅《か》いだコロンが、鼻によみがえってくる。そのときにも、どこかで知ってる香りだとは感じていたのだ。
俺は、叔母さんの足もとにすわったままだ。頭の上に置かれているのは、俺の心にビンビンと響いてくるその感触は、眉子叔母さんの手のひらだ。
わかった。俺を拘束した、KSIと名乗っていたやつは、あのケンさんだ。
間違いない。
で、これは、俺の行動を支配しようとするこれは、ケンさんが俺にかけた催眠術か何かなのか?