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NR(ノーリターン)56
日期:2018-09-30 08:54  点击:319
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 雨は上がっていた。
 それだけでも、よしとしなくちゃ。
 病院の出入口から門までは、結構、距離がある。
 今日、診察を受けに来たとき、いまたどっているのと逆に歩いていて、病院の建物が意外に古びている気がした。天気が悪かったせいもあるのかもしれないけど。
 俺は、前のように病院に親しみを感じることはなくなっていた。事故のあと、ここで、ひと月以上の時間を過ごしていたなんてね。
 ドクターは、「マインドコントロール」について、しつこく聞いたけれど、俺は、答えなかった。絶対、眉子叔母さんに襲いかかりそうになったなんて、口にしたくない。
 病院の門を出て、コンクリートの塀に沿って歩き出したときだった。
 肩をたたかれた。
「ずいぶんと久し振りね」
 誰なんだ?
 かなり派手な服の女。
 こうやって、記憶をなくす前の知り合いが現われてしまう。そして、「説明」をしなければならない。交通事故にあったらしい、それまでのことは覚えていない、と。
 うっとうしいぜ。記憶喪失には、うんざりだ。
 女は、首をかしげた。
「事故からそんなに時間がたっていなかったから、あなたの新しい記憶の生成がうまくいってなかったのかしら? あのときは、バッグを取り返してくれて、助かったわ」
 それで、わかった。
 ひったくり事件のときの女だ。前に俺と付き合ってたって言ってた。それで飯食っても思い出せなくて、寝てみたらわかるんじゃないかって言われて……、結局、記憶がよみがえることはなかった相手。
 あらためて見ると、結構な年齢のようだった。それと、なんというのか、派手なピンク系の色の服がすごい。
 俺、ホントにこのひとと寝たのか?
 未来への記憶が、やばくなってるよな。
 女は名刺を差し出した。
 受け取ると、大きな文字のロゴ・マークのようなものが、目に飛び込んできた。
(挿絵省略)

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