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「いらっしゃーい。社長」
だれに声をかけているのかと思ったね。
あたりを、キョロキョロしちゃった。
いま俺は、会社は経営していない。社長ではないのはたしかだ。
記憶のなくなってしまった過去において社長をしてたっていうんなら、可能性はごく少ない気がするけれど、否定はできない。
「お兄さん、おひとり?」
俺は、この、胸の谷間も両脇もほとんど露出しちゃってる女ね、乳首だけ隠れる仕組みのミニワンピースの子のお兄さんでもないと思う、たぶん。
記憶のなくなってしまった過去において、この子のお兄さんだった可能性は……
「キャー、高橋じゃないの。生きてたのね」
大きな胸を、ホントにね、文字どおり弾ませながら、女は叫んだ。
目の前で、ぷるんぷるん、よ。
すぐに暗い店の奥のほうから、いろんな色の服を着た、というかあまり着ていない女の一団が出て来た。
「えー、高橋?」
「ちょっと、ちょっと、高橋よ。高橋が来たの」
「信じらんない、高橋よ。本物」
たちまち、俺、店の中に引っ張り込まれちゃった。
「事故は大丈夫だったのね。よかった」
「あ、サリナ? 今日はお休みなのよ。え? 店長? いま出かけてる。たぶん、もうすぐ帰るわよ、もうちょっとしたらね」
「いいから、いいから。今日は、お客になりなさいよ」
「そうよ、いま暇なのよ。久し振りなんだから。ビールでいい?」
俺ね、サリナに聞こうと思ったの。まず、MSUにはいったのかってこと。誘われてるって言ってたじゃない。
それから、KSIのこと、何か知らないかどうか。
それで、店長に教わっていた店に、初めて(初めてではないのだろうけど)来たの。
手を引っ張られて、ソファのようなベンチのような席にすわらせられた。
それで、テーブルにビールとグラスが置かれたとたん、横から手が伸びてきてベルトがはずされちゃった。
で、あっという間に、ファスナーを引きおろされる。
「すぐに来てくれたらよかったのに」
「そうよ、高橋ったら冷たいんだから」
パンツから出された俺のペニスは、そう冷たくもないもので拭《ぬぐ》われて、すぐに熱いものの中に吸い込まれた。
「うっ」
それとは別の唇が、玉をはさむようにしてしゃぶる。
「おっ」
両手と両脚を押さえられて、テーブルの下にはいった、ふたりの女の子に交互にペニスを吸われてたの。
そしたら、暗闇から、男が音もなく現われた。
「困ったことになりました。やはり、あなたの叔母さんは大問題のようです。中国人、血縁、大事にする。あなた、どうしますか」
俺の横に座った店長は、タバコに火をつけた。
浮かない表情。
「こみいった話になりますです。叔母さんは、なんともあろうことか、桝本組とも接触してるのです。高原組が見過ごせないような事態にならねばよいのですが。あの小さいチンポの桝本ですよ。あなたのは、やっぱり、大きい。私の肛門《こうもん》、バカバカにならないでよかった」
店長は、暗い顔で俺のペニスを見おろしていた。