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父と母(つまり、現在、MSUの理事長であるK)は、年齢が相当に離れていた。中年に達していた父は、性的な能力が十分ではなかったらしい。
早くこどもが欲しいと思った両親は、体外受精を試みる。
しかし、最先端の研究者である父は、ふたりの受精卵をつくらなかった。母親から採取した卵子の核を取り、自分の体細胞の核を移植。
つまりは、父の遺伝情報のみを載せた卵を母の子宮にもどす。母には、まったく告げずに。そうやって産まれた、父のクローンが、俺なのだという。
「悪魔の仕業ね、慧にしてみたら。研究上の興味から、実験として父は行ったらしいんだから。MSUが女性の権利を訴えるのも、このへんもひとつの原点になってるのかしら」
眉子叔母さんは言った。
そして、付け加えた。
「だけど、その悪魔のおかげで、あなたは後悔しなくてすむわ、慧とセックスしたってことに。少なくとも遺伝子的には親子じゃないんだから」