福岡市のバイオベンチャー「MUSCA(ムスカ)」がイエバエを使い、家畜の排せつ物や食品残渣(ざんさ)などの有機廃棄物を1週間で分解して肥料にし、同時に動物性たんぱく質飼料も作る「昆虫技術(Insect Technology)システム」を開発した。今年度中にこのシステムを使ったリサイクル事業の実用化と量産体制構築を目指している。同社の暫定CEO(最高経営責任者)に7月就任した流郷綾乃さんは「昆虫の力で、食糧危機に終止符を」と意気込んでいる。
社名のムスカは、身近にいる代表的なイエバエの学名から取った。45年間で1100世代の交配を繰り返して改良を続けた「エリートのイエバエ」を活用する。家畜糞尿(ふんにょう)にイエバエの卵を置き、ふ化した幼虫が出すさまざまな酵素で有機肥料化する。育ったイエバエの幼虫は良質な動物性たんぱく質として飼料の原料になる。
有機廃棄物の分解が通常より早く、しかも高性能な肥料と飼料を同時に作り出す技術は、旧ソ連が宇宙船内での食糧供給システムとして研究していたもの。同社の串間充崇会長らが引き継いで完成させたという。
国連によれば、現在約8億1500万人、9人に1人が飢餓状態にあり、さらにアフリカでは4人に1人が栄養不良に陥っているといわれている。国連食糧農業機関(FAO)は2013年に世界の食糧危機を解決するため、高栄養価の昆虫類の活用を推奨する報告書を発表している。報告書によると、採集や飼育の産業化で新たな雇用や収入を生むほか、牛などの家畜より飼料が少なくてすむため、温室効果ガスの排出量を減らすことも期待できるという。
暫定CEOの流郷さんは「昆虫の力で、食糧危機、産業廃棄物処理という世界が直面する問題解決に挑みたい」と話している。