間男《まおとこ》の首代《くびだい》
据えられて七両二歩の膳を食い
ところで、訴え出たあとは、ハリツケにするも、助けて島送りにするも、亭主の胸三寸だったのであるが、江戸も後期の川柳時代になると、町人も算盤《そろばん》ずくになってきて、お上へ突きだすかわりに、首代《くびだい》と称して、間男からは七両二歩の金をまき上げたものである。
七両二歩という額がどこから割りだされたかというと、当時額面十両の大判一枚は贈答用で、実勢価格は七両二歩であった。ところが十両以上盗んだ者は打ち首ということになっていたので、打ち首にするかわりに、大判一枚の相場七両二歩をとることにしたのである。それで冒頭の句が生まれたわけだ。ちなみに当時の一両は、今の六万円前後であった。
しかしまもなく、安永《あんえい》・天明《てんめい》のころには、五両と相場が下落したらしい。
女房の損料亭主五両とり
売色のうちで高いは五両なり
なるほど、当時吉原の最高級の|おいらん《ヽヽヽヽ》でも、昼三《ちゆうさん》といって昼間半日の揚代《あげだい》が金三歩だったのだから、その約七倍の五両を、運悪くいっぺんこっきりで取られたのでは、すこし高すぎる。しかし、いくら高くても金ですむということになると、
その憎さ間夫《まぶ》へ女房五両やり
と、こっそり首代を回す、かい性のある女房もあらわれることになる。しかしそのヘソクリは、元はといえばそれを受けとる亭主のかせぎなのだから、漫画みたいなものである。
話がそこまでわかってくると、夫婦なれあいで稼《かせ》ぐやつが出てきてもやむをえまい。
女房はゆるく縛って五両とり
五両ずつ亭主に三度とってやり
十五両目になれ合いと評がつき
すべて物事は銭金《ぜにかね》ずくになると、落ちるところまで落ちるものである。あに政治のみならんやである。それにしてもなぜ「筒持たせ」を美人局《つつもたせ》と書くのであろうか。もちろん「筒持たせ」という言葉は江戸時代の初期からあるが、美人局という漢字はあてていない。文字どおり「筒持たせ」と書いている。
女房に目当ての男の筒を持たせるという意味であろうか。ところが中国の『武林旧事《ぶりんきゆうじ》』という書物に、美人局というサギ行為は、倡優《おかま》を偽って姫妾《むすめ》となし、少年を誘惑して事をなすとある。してみると美人局本来の意味は、オカマが女装して男をいっぱいくわせるということなのである。明治になって、なんでもかんでも漢字をあてた時、性的サギ行為というほどの意味で、美人局とあてて、学のあるところを示したのであろう。