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日本人の笑い56
日期:2018-11-04 23:53  点击:344
   三人尼
 
 
 比丘《びく》(僧)ばかりをからかって、比丘尼を無視するわけにはいかない。ところで最近仕事と探勝をかねて雲州松江《うんしゆうまつえ》をおとずれ、宍道湖畔《しんじこはん》の宿で、鳥取《とつとり》の友人が酔いに乗じて歌ってくれた『三人娘』という民謡はおもしろかった。
 
  因州《いんしゆう》因幡《いなば》の烏取の
  しかも街道のまん中で
  三人娘が出あいして
 
  先なる娘は十六で
  中なる娘は十七で
  あとなる娘は十八で
 
  先なる娘がいうことにゃ
  はじめて殿御《とのご》とねたよさは
  三つ目のキリでもむがごと
  キリリキリリと痛《い》とごんす
 
  中なる娘がいうことにゃ
  はじめて殿御とねたよさは
  朝倉|山椒《ざんしよ》をかむがごと
  ヒリリヒリリとようごんす
 
  後なる娘がいうことにゃ
  はじめて殿御とねたよさは
  麦|飯《まま》とろろを吸うがごと
  トロリトロリとようごんす
 
 深夜放送のセクシーな声やムードでやられるとかなわないが、調子が軽くひなびているので、ひょうきんでおもしろかった。本書がソノラマでないのが残念だ。
 ——文句がもうすこしおだやかだとネ、とうに放送されてるんだが。
と、鳥取の友人も残念がっていた。
 さてこの三人娘の趣向はずいぶん古いもので、江戸初期の小咄本《こばなし》『きのうはきょうの物語』に三人|尼《あま》のはなしがある。
 尼さんが三人づれで歩いていると、道ばたで、馬が|あれ《ヽヽ》をおっ立てていた。彼女たちは尻目にかけて、そしらぬ顔で通りすぎたが、先なる尼さんがこらえかねていった。
 ——今の物は、さても見事や、いざめんめんに名をつけよう。
 あとの二人が賛成したので、さらばと、先なる尼さんが「九献《くこん》」と名づけた。そのわけをきくと、
 ——酒は夜昼なしに、飲みさえすれば心が勇んでおもしろい。その上酒は三々九度といって、九度のむのが正式じゃ。それから上は相手の気根しだい。
といった。
 中なる尼さんは「梅干《うめぼし》」と名づけ、
 ——見るたびに唾《つば》が出るから。
といった。
 後なる尼さんは「鼻毛抜き」と名づけ、
 ——抜くたびに涙がこぼれる。
といった。

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