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黒田如水18
日期:2018-11-15 22:59  点击:299
 先駆の一帆
 
 間もなく、町は灯《ひ》ともし頃となった。暮れるとともに、路地の中まで、海辺らしい風が冷《ひや》やかに流れてくる。
 官兵衛が湯漬を食べ終った頃、与次右衛門は帰って来て、
「ちとご不便でございましょうが、唖《おし》で極く正直者という船頭に金を与え、雁《かり》の松の下へ、舟を廻しておくように申しつけて参りました。……が、きょうの夕方頃、毛利方のお船手が十人余り兵糧船から上陸《あ が》って、三木城のお侍衆と一緒についそこの遊女《ゆうじよ》町で飲んでおるということでございますし、そのほかだいぶ見かけない侍衆が町をあるいておる様子ゆえ、お出ましには十分、お気をつけ遊ばさないといけません」
 と、彼の戒心《かいしん》をうながした。
 官兵衛は、うなずいて、
「いまも飯をたべながら考えてみたが、この姿のままでは、海上はともかく、岐阜までは所詮《しよせん》、難なく歩くのは難しい気がする。ちょうどこの家からは、諸国へ目薬売りの行商人《あきんど》が出ておるから、その旅商《たびあきな》いの身支度を一揃い、わしに貸してくれんか。——すぐここから身装《みなり》を変えて出かけよう」と、いった。
 それはよいお考えつきと、与次右衛門も同意はしたが、さて、売子の着るうす汚い肌着や脚絆《きやはん》などを取って官兵衛が着替えているのを見ると、前途の危険やらその覚悟の心根が思いやられて、この人を幼い時から手塩《てしお》にかけた与次右衛門としては、面《おもて》をそむけて、ひそかに涙を拭わずにいられなかった。
 ——が、当人は至極暢気《のんき》そうで、いっこうそんな感傷にとらわれていないのだ。どうだ、似合うだろう——などとお菊を顧みて戯《たわむ》れてみせたり、また、
「荷物の中も、空箱ではいかんぞ。何ぞの時、調べられたら大事だ。それに、掛売りの帳面、目薬屋の証《あか》し手形など、細々《こまごま》した物もみな出してくれい。……なに、頭か。なるほど髷《まげ》の形もこれではいけまい。お菊さん、ちょっとこわして、よいほどに束《たば》ね直してくれぬか」
 などと先を急ぎながらも、細心の注意をくばった。

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