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黒田如水24
日期:2018-11-15 23:01  点击:413
 深夜叩門
 
 深更《しんこう》であった。
 城下端《はず》れに近い一寺院のまえに黒田主従は立ちどまった。
 ——深更でもよろしい。
 ということばであった由なので、官兵衛はわざと、すこし夜を更《ふ》かして来たのである。
「お待ちください。それがしが訪れてみますから」
 衣笠久左衛門が、小門をたたいて、中の番兵に、何か告げていた。秀吉の意志が通じられていなかったのか、ひどく質問がきびしい。もっとも、当夜も官兵衛はべつに着更えをもたないので、目薬売りの姿のままだったので、怪しむほうが当然でもあった。
「しばらく待っておれ」
 そういわれて、門外に佇《たたず》んでいること、実に小半時におよんだ。——が、やがてべつな家臣が数名して迎えに来たときは、その無礼を謝し、下へも措《お》かないほど慇懃《いんぎん》であった。
「実は主人秀吉には、北近江より当地まで参るあいだ夜もほとんど、宿所ではお寝《やす》みなく、野営しては一睡をとり醒めればまた馬をすすめ、不眠不休の状態で参りましたあげく、着くやいな、この宿舎にも立ち寄らずご本城へのぼられて、信長卿とご対談、つい夕刻頃、ようやくこれへお下りになったようなわけで……お行水《ぎようずい》を召されるやいな、大鼾《おおいびき》をかいてお寝みになられていたものですから。——まことに失礼いたしました。さっそくお目にかかろうとのおことばです。いざこちらへ」
 と、手燭《てしよく》をかざして、寺の庭を、奥ふかくまで導きながら、羽柴家の人々は、交《こもごも》にいい訳をのべて、客に謝するのであった。
 秀吉の側に仕えている小姓たちであろう。中には、きょうの昼、久左衛門に槍を向けた若者の顔もあったように思われた。いずれにせよ、召使たちまでがみな客にたいして感じがよい。主人の疲れを庇《かば》うにしてもわざとらしからず、やがて一室に客を請《しよう》じてからも、家中の者の醸《かも》している明るさが、そこの灯《ともしび》よりもはるかに明るく、そして一つの羽柴家の家風というものをつつみなく顕《あら》わしていた。

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