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黒田如水28
日期:2018-11-16 21:12  点击:255
 鷹二
 
「お風呂のしたくが調《ととの》いましたが」
 と、小姓が告げて来たのを機に、
「や、そうか。……どうだ官兵衛。小姓が案内するによって、一浴び湯をつこうては参らぬか」
 と、秀吉は来意も聞いていないのに、逗留《とうりゆう》客でもねぎらうように独り合点してからすすめた。
「何せい、夏の馳走《ちそう》は、風呂よりましはない。汗をながして、浴衣《ゆかた》になられたがいい。……夜は短いが、そのうえで、部屋をあらためて、食事を共にいたそう。……何、夜食はすまして来られたといわるるか。それは重《かさ》なるが、この筑前は、実はまだ半分しか食事いたしておらぬ。宵寝《よいね》の一睡から醒め、飯を食うておる折へ、ちょうど御辺がお訪ねというので、食べかけたもそのまま、半分で膳を退《さ》げさせてしもうたのでござる。まずまず、話も一献あっての上のほうが弾《はず》む。——ともあれ一風呂浴びておいであれ」
 更《ふ》ける時刻も知らないもののように、秀吉は切《せつ》にすすめて、半兵衛とともにいちど私室へかくれてしまった。小姓はうしろで湯殿への案内を促している。官兵衛はぜひなく従《つ》いて行った。彼の心にはまだ悠々と湯を楽しむほどな余裕《よゆう》ができていないのである。——胸中の問題をどう切り出そうか、いつ持ち出そうか。その折を見つけている間に、またこうなっては、機会を失ったような気がしないでもない。
 別室にひかえていた衣笠久左衛門も、はなしの首尾《しゆび》はいかにと、気が気でないのであろう、官兵衛が小姓に従《つ》いてそこから長い廊下を渡って来ると、一室のうちから顔を向けて、さも心配そうに主人官兵衛の容子《ようす》を見送っていた。

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