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神州天馬侠16
日期:2018-11-30 18:24  点击:350
 朱柄の槍を持つ男
 
    四
 
 朱柄《あかえ》の槍《やり》をもった曲者《くせもの》が、城内の武士《ぶし》をふたりまで突きころしたという知らせに、さては、敵国の間者《かんじや》ではないかと、すぐ討手《うつて》にむかってきたのは、酒井|黒具足組《くろぐそくぐみ》の人々であった。
 運わるく、そのなかに、伊那丸の容貌《かおかたち》を見おぼえていた者があった。かれらは、おもわぬ大獲物《おおえもの》に、武者《むしや》ぶるいを禁《きん》じえない。たちまちドキドキする陣刀は、伊那丸と龍太郎《りゆうたろう》のまわりに垣《かき》をつくって、身うごきすれば、五体は蜂《はち》の巣《す》だぞ——といわんばかりなけんまくである。
「ちがいない。まさしくこの者は、武田伊那丸《たけだいなまる》だ」
「お城《しろ》ちかくをうろついているとは、不敵なやつ。尋常にせねば縄《なわ》をうつぞ、甲斐源氏《かいげんじ》の御曹子《おんぞうし》、縄目《なわめ》を、恥《はじ》とおもわば、神妙《しんみよう》にあるきたまえ——」
 侍頭《さむらいがしら》の坂部十郎太《さかべじゆうろうた》が、おごそかにいいわたした。
 伊那丸は、ちりほども臆《おく》したさまは見せなかった。|りん《ヽヽ》とはった目をみひらいて、周囲のものをみつめていたが、ちらと、龍太郎《りゆうたろう》の顔を見ると——かれも眸《ひとみ》をむけてきた。以心伝心《いしんでんしん》、ふたりの目と目は、瞬間にすべてを語りあってしまう。
「いかにも——」龍太郎はそこでしずかに答えた。
「ここにおわすおん方《かた》は、おさっしのとおり、伊那丸君であります。天下の武将のなかでも徳川《とくがわ》どのは仁君《じんくん》とうけたまわり、おん情けの袖《そで》にすがって、若君のご一身を安全にいたしたいお願いのためまいりました」
「とにかく、きびしいお尋ね人じゃ、おあるきなさい」
「したが、落人《おちゆうど》のお身の上でこそあれ、無礼のあるときは、この龍太郎が承知いたさぬ、そう思《おぼ》しめして、ご案内なさい」
 龍太郎は、戒刀《かいとう》の杖《つえ》に、伊那丸の身をまもり、すすきをあざむく白刃《はくじん》のむれは、長蛇《ちようだ》の列のあいだに、ふたりをはさんで、しずしずと、鬼《おに》の口にもひとしい、浜松城《はままつじよう》の大手門のなかへのまれていった。

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