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神州天馬侠27
日期:2018-11-30 18:29  点击:269
 大鷲の鎖
 
    三
 
 らんらんと光る二つの眼は、みがきぬいた琥珀《こはく》のようだ。その底にすむ金色《こんじき》の瞳《ひとみ》、かしらの逆羽《さかばね》、見るからに猛々《たけだけ》しい真黒な大鷲《おおわし》が、足の鎖《くさり》を、ガチャリガチャリ鳴らしながら、扇山《せんざん》の石柱《いしばしら》の上にたって、ものすごい絶叫《ぜつきよう》をあげていた。
 そのくろい翼《つばさ》を、左右にひろげるときは、一|丈《じよう》あまりの巨身《きよしん》となり、銀の爪《つめ》をさか立てて、まっ赤な口をあくときは、空とぶ小鳥もすくみ落ちるほどな威《い》がある。
「おおいた! クロよ、無事でいたか」
 おそれげもなく、そばへかけよってきた忍剣《にんけん》の手になでられると、鷲《わし》は、かれの肩に嘴《くちばし》をすりつけて、あたかも、なつかしい旧友《きゆうゆう》にでも会ったかのような表情をして、柔和《にゆうわ》であった。
「おなじ鳥類《ちようるい》のなかでも、おまえは霊鷲《れいしゆう》である。さすがにわしの顔を見おぼえているようす……それならきっとこの使命をはたしてくれるであろう」
 忍剣は、かねてしたためておいた一|片《ぺん》の文字《もんじ》を、油紙《あぶらがみ》にくるんでこよりとなし、クロの片足へ、いくえにもギリギリむすびつけた。
 この鷲《わし》にもいろいろな運命があった。
 天文《てんもん》十五年のころ、武田信玄《たけだしんげん》の軍勢が、上杉憲政《うえすぎのりまさ》を攻めて上野《こうずけ》乱入《らんにゆう》にかかったとき、碓氷峠《うすいとうげ》の陣中でとらえたのがこの鷲《わし》であった。
 碓氷の合戦は甲軍《こうぐん》の大勝となって、敵将の憲政《のりまさ》の首まであげたので、以来《いらい》、信玄《しんげん》はその鷲《わし》を館《やかた》にもちかえり、愛育していた。信玄《しんげん》の死んだあとは、勝頼《かつより》の手から、供養《くよう》のためと恵林寺《えりんじ》に寄進《きしん》してあったのである。ところがある時、檻《おり》をやぶって、民家の五歳になる子を、宙天《ちゆうてん》へくわえあげたことなどがあったので、扇山の中腹に石柱をたて、太い鎖《くさり》で、その足をいましめてしまった。
 幼少から、恵林寺にきていた伊那丸《いなまる》は、いつか忍剣《にんけん》とともに、この鷲《わし》に餌《え》をやったり、クロよクロよと、愛撫《あいぶ》するようになっていた。獰猛《どうもう》な鷲《わし》も、伊那丸や忍剣の手には、猫《ねこ》のようであった。そして、恵林寺が大紅蓮《だいぐれん》につつまれ、一|山《ざん》のこらず最期《さいご》をとげたなかで、鷲《わし》だけは、この山奥につながれていたために、おそろしい焔《ほのお》からまぬがれたのだ。
「クロ、いまこそわしが、おまえの鎖《くさり》をきってやるぞ、そしてその翼《つばさ》で、大空を自由にかけまわれ、ただ、おまえをながいあいだかわいがってくだすった、伊那丸さまのお姿を地上に見たらおりてゆけよ」
 そういいながら、鎖に手をかけたが、鷲《わし》の足にはめられた鉄《くろがね》の環《かん》も、またふとい鎖も断《き》れればこそ。
「めんどうだ——」と、忍剣は鉄杖《てつじよう》をふりかぶって、石柱の角にあたる鎖を|はッし《ヽヽヽ》と打った。
 そのとき、ふもとのほうから、ワーッという、ただならぬ鬨《とき》の声《こえ》がおこった。鎖《くさり》はまだきれていないが、忍剣《にんけん》はその声に、小手《こて》をかざして見た。
 はやくも、木立のかげから、バラバラと先頭の武士がかけつけてきた。いうまでもなく、大須賀康隆《おおすかやすたか》の部下である。扇山へあやしの者がいりこんだと聞いて、捕手《とりて》をひきいてきたものだった。
「売僧《まいす》、その霊鳥《れいちよう》をなんとする」
「いらざること。この鷲《わし》こそ、勝頼公《かつよりこう》のみ代《よ》から当山に寄進《きしん》されてあるものだ! どうしようとこなたのかってだ」
「うぬ! さては武田《たけだ》の残党《ざんとう》とはきまった」
「おどろいたかッ」と、いきなりブーンとふりとばした鉄杖《てつじよう》にあたって、二、三人ははねとばされた。
「それ! とりにがすな」
 ふもとのほうから、追々《おいおい》とかけあつまってきた人数を合《がつ》して、かれこれ三、四十人、槍《やり》や太刀《たち》を押ッとって、忍剣の虚《きよ》をつき、すきをねらって斬ってかかる。
「飛び道具をもった者は、梢《こずえ》のうえからぶッぱなせ」
 足場がせまいので、捕手の頭《かしら》がこうさけぶと、弓、鉄砲《てつぽう》をひッかかえた十二、三人のものは、猿《ましら》のごとく、ちかくの杉《すぎ》や欅《けやき》の梢にのぼって、手早く矢をつがえ、火縄《ひなわ》をふいてねらいつける。
 下では忍剣《にんけん》、近よる者を、かたッぱしからたたきふせて、怪力のかぎりをふるったが、空からくる飛び道具をふせぐべき術《すべ》もあろうはずはない。
 はやくも飛んできた一の矢! また、二の矢。
 夜叉《やしや》のごとく荒れまわった忍剣は、突《とつ》として、いっぽうの捕手《とりて》をかけくずし、そのわずかなすきに、ふたたび鷲《わし》の鎖《くさり》をねらって、一念力、戛然《かつぜん》とうった。
 きれた! ギャーッという絶鳴《ぜつめい》をあげた鷲《わし》は、猛然と翼《つばさ》を一はたきさせて、地上をはなれたかと見るまに、一陣の山嵐をおこした翼のあおりをくって、大樹《たいじゆ》の梢《こずえ》の上からバラバラとふりおとされた弓組、鉄砲組。
「ア、ア、ア!」とばかり、捕手《とりて》の軍卒《ぐんそつ》がおどろきさわぐうちに、一ど、雲井《くもい》へたかく舞いあがった魔鳥《まちよう》は、ふたたびすさまじい|天※[#「(犬/犬+犬)+風」]《てんぴよう》をまいて翔《か》けおりるや、するどい爪《つめ》をさかだてて、旋廻《せんかい》する。
 ふるえ立った捕手どもは、木の根、岩角《いわかど》にかじりついて、ただアレヨアレヨと胆《きも》を消しているうちに、いつか忍剣のすがたを見うしない、同時に、偉大なる黒鷲《くろわし》のかげも、天空はるかに飛びさってしまった。

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