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神州天馬侠33
日期:2018-11-30 18:31  点击:287
 智恵のたたかい
 
    一
 
 板子《いたご》一枚下は地獄《じごく》。——船の底はまッ暗だ。
 空も見えなければ、海の色も見えない。ただときおりドドーン、ドドドドドーン! と胴《どう》の間《ま》にぶつかってはくだける怒濤《どとう》が、百千の鼓《つづみ》を一時にならすか、雷《いかずち》のとどろきかとも思えて、人の魂《たましい》をおびやかす。
 その船ぞこに、生ける屍《しかばね》のように、うつぶしているのは、武田伊那丸《たけだいなまる》のいたましい姿だった。
 八幡船《ばはんせん》が遠州灘《えんしゆうなだ》へかかった時から、伊那丸の意識《いしき》はなかった。この海賊船《かいぞくせん》が、どこへ向かっていくかも、おのれにどんな危害が迫《せま》りつつあるのかも、かれはすべてを知らずにいる。
「や、すっかりまいっていやがる」
 さしもはげしかった、船の動揺もやんだと思うと、やがて、入口をポンとはねて、飛びおりてきた手下どもが伊那丸のからだを上へにないあげ、すぐ船暈《ふなよい》|ざまし《ヽヽヽ》の手当にとりかかった。
「やい、その童《わつぱ》の脇差《わきざし》を持ってきて見せろ」
 と舳《みよし》からだみごえをかけたのは、この船の張本《ちようほん》で、龍巻《たつまき》の九郎《くろう》右衛門《えもん》という大男だった。赤銅《しやくどう》づくりの太刀《たち》にもたれ、南蛮織《なんばんおり》のきらびやかなものを着ていた。
「はて……?」と龍巻は、いま手下から受けとった脇差の目貫《めぬき》と、伊那丸の小袖《こそで》の紋《もん》とを見くらべて、ふしんな顔をしていたが、にわかにつっ立って、
「えらい者が手に入った。その小童《こわつぱ》は、どうやら武田家《たけだけ》の御曹子《おんぞうし》らしい。五十や百の金で、人買いの手にわたす代物《しろもの》じゃねえから、めったな手荒をせず、島へあげて、かいほうしろ」
 そういって、三人の腹心の手下をよび、なにかしめしあわせたうえ、その脇差を、そッともとのとおり、伊那丸《いなまる》の腰へもどしておいた。
 まもなく、軽舸《はしけ》の用意ができると、病人どうような伊那丸を、それへうつして、まえの三人もともに乗りこみ、すぐ鼻先《はなさき》の小島へむかってこぎだした。
「やい! 親船がかえってくるまで、大せつな玉を、よく見はっていなくっちゃいけねえぞ」
 龍巻《たつまき》は二、三ど、両手で口をかこって、遠声をおくった。そしてこんどは、足もとから鳥が立つように、あたりの手下をせきたてた。
「それッ、帆綱《ほづな》をひけ! 大金《おおがね》もうけだ」
「お頭領《かしら》、また船をだして、こんどはどこです」
「泉州《せんしゆう》の堺《さかい》だ。なんでもかまわねえから、張れるッたけ帆《ほ》をはって、ぶっとおしにいそいでいけ」
 キリキリ、キリキリ、帆車《ほぐるま》はせわしく鳴りだした。船中の手下どもは、飛魚《とびうお》のごとく敏捷《びんしよう》に活躍しだす。舳《みよし》に腰かけている龍巻は、その悪魔的《あくまてき》な跳躍《ちようやく》をみて、ニタリと、笑みをもらしていた。

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