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神州天馬侠36
日期:2018-11-30 18:32  点击:272
 智恵のたたかい
 
    四
 
 伊那丸《いなまる》は、日ならぬうちに気分もさわやかになった。それと同時に、かれは、生まれてはじめて接した、大海原《おおうなばら》の壮観《そうかん》に目をみはった。
 ここはどこの島かわからないけれど、陸《りく》のかげは、一里ばかりあなたに見える。けれど、伊那丸には、龍巻の手下が五、六人、一歩あるくにもつきまとっているので逃げることも、どうすることもできなかった。
「ああ……」忍剣《にんけん》を思い、咲耶子《さくやこ》をしのび、龍太郎《りゆうたろう》のゆくえなどを思うたびに、波うちぎわに立っている伊那丸《いなまる》のひとみに涙が光った。
「なんとかしてこの島からでたい、名もしれぬ荒くれどもの手にはずかしめられるほどなら、いッそこの海の底に……」
 夜はつめたい磯《いそ》の岩かげに組んだ小屋にねる。だが、そのあいださえ、羅刹《らせつ》のような手下は、交代《こうたい》で見張《みは》っているのだ。
「そうだ、あの親船が返ってくれば、もう最期《さいご》の運命、逃げるなら、いまのうちだ」
 きッと、心をけっして、頭をもたげてみると、もう夜あけに近いころとみえて、寝ずの番も頬杖《ほおづえ》をついていねむっている。
「む!」はね起きるよりはやく、ばらばらと、昼みておいた小船のところへ走りだした。ところがきてみると、船は毎夜、かれらの用心で、十|間《けん》も陸《おか》の上へ、引きあげてあった。
「えい、これしきのもの」
 伊那丸は、金剛力《こんごうりき》をしぼって、波のほうへ、綱《つな》をひいてみたが、荒磯《あらいそ》のゴロタ石がつかえて、とてもうごきそうもない。——ああこんな時に、忍剣ほどの力がじぶんに半分あればと、益《えき》ないくり言《ごと》もかれの胸にはうかんだであろう。
「野郎ッ、なにをする!」
 われを忘れて、船をおしている伊那丸のうしろから、松の木のような腕《うで》が、グッと、喉輪《のどわ》をしめあげた。
「見つかったか」伊那丸《いなまる》は歯がみをした。
「こいつ。逃げる気だな」
 喉《のど》に閂《かんぬき》をかけられたまま、伊那丸はタタタタタと五、六歩あとへ引きもどされた。
 もうこれまでと、脇差《わきざし》の柄《つか》に手をやって、やッと、身をねじりながら切《き》ッ先《さき》をとばした。
「あッ——き、斬《き》りやがったなッ」
 とたん——目をさましてきた四、五人の手下たちも、それッと、櫂《かい》や太刀をふるって、わめきつ、さけびつ撃《う》ちこんできたが、伊那丸も捨身《すてみ》だった。小太刀の精のかぎりをつくして、斬りまわった。
 しかし何せよ、慓悍無比《ひようかんむひ》な命しらずである。ただでさえ精《せい》のおとろえている伊那丸は、無念《むねん》や、ジリジリ追われ勝ちになってきた。

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