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神州天馬侠73
日期:2018-11-30 18:52  点击:296
 魔人隠形の印
 
    三
 
 さきにはね起きたのは、呂宋兵衛であった。
 かれの左の足に、一本の流れ矢がつき刺さっていた。つづいて民部《みんぶ》も飛びおきた。またすさまじい短剣と短剣の斬りあいになる。
「やッ、呂宋兵衛、ここにおったか」
 そのとき、ゆくりなくもきあわせた巽小文治《たつみこぶんじ》が、朱柄《あかえ》の槍《やり》をしごいて、横から突っこんだ。
「じゃまするなッ」
 ガラリとはらう。さらに突く。
 さらにはらう。またも突きだす。
 この妙槍《みようそう》にかかっては、さすがの呂宋兵衛も、弱腰になった。それさえ、大敵と思うところへ、加賀見忍剣《かがみにんけん》、木隠龍太郎《こがくれりゆうたろう》、山県蔦之助《やまがたつたのすけ》の三人が、ここのあやしき物音を知って、いっせいに蹄《ひづめ》をあわせて、三方から、野嵐《のあらし》のごとく馬を飛ばしてくるようす。
「呂宋兵衛、呂宋兵衛、汝《なんじ》、いかに猛《もう》なりとも、ふくろのなかのねずみどうようだ、時うつればうつるほど、ここは鉄刀鉄壁《てつとうてつぺき》にかこまれ、そとは八門暗剣の伏兵《ふくへい》にみちて、のがれる道はなくなるのじゃ、神妙《しんみよう》に観念《かんねん》してしまえ」
 小幡民部《こばたみんぶ》がののしると、呂宋兵衛《るそんべえ》はかッと眼《まなこ》をいからせて、わざとせせら笑った。
「だまれッ。汝《なんじ》らのような|とうすみ《ヽヽヽヽ》とんぼ、百ぴきこようと千びきあつまろうと、この呂宋兵衛の目から見れば子供のいたずらだわ」
「舌長《したなが》なやつ、その息《いき》のねをとめてやるッ」
「なにを」
 と呂宋兵衛は立ちなおって、剣を、鼻ばしらの前へまッすぐ持ち、あたかも、不死身《ふじみ》の印《いん》をむすんでいるような形。
 ふしぎや、小文治《こぶんじ》の槍《やり》も民部の太刀も、その奇妙《きみよう》な構《かま》えを、どうしても破ることができない。ところへ、同時にかけあつまったまえの三人。
 この態《てい》を見るより、めいめい、ひらりひらりと鞍《くら》からおりて、かけよりざま、
「おうッ、巽小文治《たつみこぶんじ》どの、龍太郎《りゆうたろう》が助《すけ》太刀《だち》もうすぞ」
「加賀見忍剣《かがみにんけん》これにあり、いで! 目にものみせてくれよう」
 とばかり、呂宋兵衛の前後からおッつつんだ。
 さすがのかれも、ついにあわてだした。そして、一太刀も合わせず、ふいに忍剣の側《わき》をくぐって疾風《しつぷう》のように逃げだした。
「待てッ」
 すばやくとびかかった龍太郎が、戒刀《かいとう》の切《き》ッ先するどく薙《な》ぎつけると、呂宋兵衛はふりかえって、右手の鎧通《よろいどお》しを手裏剣《しゆりけん》がわりに、
「えいーッ」
 気合《きあ》いとともに投げつけた。
 龍太郎《りゆうたろう》は身をしずめながら、刀のみねで、ガラリとそれをはらい落とした。
 と、なにごとだろう?
 ピラピラと、魚鱗《ぎよりん》のような閃光《せんこう》をえがいて飛んできた鎧通《よろいどお》しが、龍太郎の太刀《たち》にあたると同時に、銀粉《ぎんぷん》のふくろが切れたように、粉々《こなごな》とくだけ散って、あたりはにわかに、月光と霧《きり》につつまれたかのようになった。
「や、や。あやしい妖気《ようき》」
「きゃつはキリシタンの幻術師《げんじゆつし》、かたがたもゆだんするな」
「この忍剣《にんけん》にならって、破邪《はじや》のかたちをおとり召されい」
 と、まッさきに忍剣が、大地にからだをピッタリ伏《ふ》せ、地から上をすかしてみると、いましも、黒い影がするするとあなたへ足をはやめている。
「おのれッ」
 とびついていった忍剣の禅杖《ぜんじよう》が、力いッぱい、ブーンとうなった。とたんに、一|陣《じん》の怪風——そして、わッ、と、さけんだのはまぎれもない呂宋兵衛《るそんべえ》である。
 たしかに手ごたえはあったらしいが、かれもさるもの、すばやく隠形《おんぎよう》の印《いん》をむすび、縮地飛走《しゆくちひそう》の呪《じゆ》をとなえるかと見れば、たちまち雷獣《らいじゆう》のごとく身をおどらせ、おどろく人々の眼界から、一気に二、三町も遠くとびさってしまった。
「あ、あ、あ、あ、あ!」とさすがの忍剣も、龍太郎《りゆうたろう》もそのゆくえを、ただ見まもるばかり。
 目《ま》ばたきするまに、二、三町もとんだ呂宋兵衛《るそんべえ》のあとには、うすい虹《にじ》か、あわい霧《きり》のようなものが一すじ尾をひいてのこった。

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