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神州天馬侠83
日期:2018-11-30 18:57  点击:255
 吹針の蚕婆
 
    四
 
 柿《かき》の木から飛びおりた竹童《ちくどう》は、はじめてそこに人あるのを知って、軒先《のきさき》に近より、家の中をのぞいてみると、奥《おく》には雑多《ざつた》な蚕道具《かいこどうぐ》がちらかっており、土間《どま》のすみの土《ど》|べっつい《ヽヽヽヽ》のまえには、ひとりの男がうしろ向きにしゃがんで、スパリ、スパリ、煙草《たばこ》をつけながら火を見ている。
「ごめんよ、あれ、お婆《ばあ》さんとこの柿《かき》の木だったのかい?」
 竹童《ちくどう》は繭《まゆ》の鍋《なべ》をのぞきながら、たッた一つおじぎをした。
 婆《ばあ》さんは、ぎょろッとした目をあげて、
「人みしりをしねえ餓鬼《がき》だ。なんだって、人んとこの柿をだまってぬすみさらすのじゃい」
「だからあやまってるじゃないか。ああそうそう、おいらも用があってこの村へきたんだっけ。お婆さん、どこかこのへんに、物をあきなっている家《うち》はないかしらなあ」
「でまかせをこけ。この村には、ここともう一|軒鍛冶屋《けんかじや》よりほかに人はいやしない。そんなことは承知《しようち》のうえで、柿泥棒《かきどろぼう》にきやがったくせにして」
「ほんとだ、おいらまったく買いたい物があってきたんだ。お婆さんとこにあったらゆずってくんないか」
「なんだい」
「松明《たいまつ》さ」
「松明?」
「アア、二十本ばかりほしいんだがなあ」
「餓鬼のくせに、松明なんかなんにするだ」
「ちょッといることがあるんだよ。お婆《ばあ》さんの家《うち》に持ちあわせはないかね」
「ねえッ、そんなものは!」
 といった婆さんの顔を見て、竹童は「あッ」と叫んでしまった。お婆さんの口の中で光った物があったのだ。三、四本の乱杭歯《らんぐいば》の間を、でたり入《はい》ったりしているのは、たしかに四、五十本の縫針《ぬいばり》だ。
 これだ!
 さっき柿の木の上まで飛んできて頬《ほ》っぺたを刺《さ》した針は——竹童はむッとした。
「たぬき婆《ばばあ》。もう、松明《たいまつ》なんかたのまない!」
「なんだと、この小僧《こぞう》」
「よくも、|おいら《ヽヽヽ》をさんざん悩《なや》めやがったなッ」
 いきなり腰の棒切《ぼうき》れを抜いてふりかぶり、蚕婆《かいこばばあ》の肩をピシリと打っていったせつな、あら奇怪、身をかわした婆《ばばあ》の口から、ピラピラピラピラピラピラピラ糸のような細い光線となって、竹童の面《めん》へ吹きつけてきた含《ふく》み針《ばり》!
 これこそ、剣、槍《やり》、薙刀《なぎなた》の武術のほかのかくし技《わざ》、吹針《ふきばり》の術《じゆつ》ということを、竹童も、話には聞いていたが、であったのは、きょうがはじめてである。
「その時に、目に気をつけろ、敵の目をとるのが吹針の極意《ごくい》」と、かねて聞いていたので、竹童はハッとして、とっさに顔をそむけて飛びのいた。

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